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シスター ファス・ファタール1




ある夜、タツヤがベッドに寝転がり、いつもの日課に挑もうとした瞬間、足下が急に発光しだした。


「な、何だこれ何だこれ……!??」」


アニメやゲームで見たような魔方陣らしきものが足下に浮んでいる。

しかしタツヤに出来る事はなく、次に目を開いた時には全く違う所に転移していた。


まず、どう見ても自分の部屋じゃなかった。

というか、どう見ても現代日本じゃなかった。

石のレンガでできた壁、ふわんと香る花のような香り。清潔そうではあるが狭くて簡素なベッド。カーテンやら小さなテーブルに乗っているクロスやらには、フリルやレースだらけである。


まず、どう見ても女の子の部屋だった。

というか、タツヤの目の前に、女の子が、居た。


黒く楚々としたシスターの衣装。服の素材が薄いのか、彼女のほっそりとした華奢なボディラインをローブの黒が際立たせている。淡く膨らみかけの胸、折れそうな程に細いウエスト、なのにまろい曲線を描く臀部。

恭しげに跪き、ベッドに腰掛けているタツヤを熱く見つめている。

萌葱色の瞳が、熱く潤んでタツヤだけを見上げている。


見た事もないような絶世の美少女、という程ではない。

が、とても美しく、愛らしい顔立ちをしている。

高嶺の花ではあるけれど、頑張って手を伸ばせば何とか摘み取れるかも知れない、と思わせるような可愛らしい子。


タツヤは思わず舐めるように少女を見つめてしまった。

だってタイミングが悪かった。そういう気分満々だったのだ。


少女はたっぷりとした栗色の睫毛を恥ずかしげに伏せてみせた。

ねっとりとしたタツヤの視線を嫌がる素振りはまるで無い。

彼女の身体の多くは黒に秘されていて、その透き通った白い肌を覗かせるのは、ぽうっと赤くほてった頬と、神に祈るように組まれた指先のみだった。


「……きて、くださった……ぁ!」


感極まったような愛らしい声。

うっとりと細まった瞳がたっぷりと敬意の滴る視線を送る。

日課に取りかかろうとしていたタツヤの腰に響く。


「ぁ、流石です。ああ、ほんとうに、清らかな魔力……」


すいっと、猫を思わせる身のこなしでタツヤのすぐ傍に寄る。

シスター姿だからか大人っぽく見えるが、近くで見るとまだまだ幼さの残るあどけない顔をしている。


「あの、わたくし、経験がありませんので不手際かと思いますが……。

 わたくしを愛でて、いただけませんか……?」



彼女の名前も状況すらも分からなかったが、断れる訳がなかった。

だってタツヤは毎夜の日課を致す気満々だったのだから。


「うれしい……。どうぞ、よしなに」


シスター娘はするりと頭部を覆う頭巾をずらした。

さらり、と。

明るい茶のうねった髪がずり落ちていく。

花開く寸前のような少女の肢体に、長い髪が艶やかに絡み付いていた。






ずっとずっと、待ち望んでいた。

膿んで狂った全てから、解き放って下さる唯一の光を。

あまりにも激しく、力強い光輝の奔流に身を委ねる。

汚染されかけていた身も心も、正しい状態に染め上げて頂ける。

なんて慕わしい魂の殿方だろうか。

言葉を交わさずとも、人柄を知らずとも、この御方に愛でられてみたら、誰もが脳髄に染み付くように理解させられていく事でしょう。

この方に愛される事こそ、魔力を注いで頂ける事こそが、唯一の救われる道なのだと。

じりじりと、魂の端から侵されいく。

わたくしが、わたくしではないモノに、改良されていく。

間違った認識が壊されていく、得も言われぬ恍惚。

魔力の混じり合って、彼にとって最適のモノを作り出していくよう改良されていく幸せ。

染まる。染まる。染まっていく。

この方にとってよりよき形状に、身も心も魂も、魔力の型も、最適化されていく。

この方に愛でられるのにぴったりのカタチに、作り直されていく。

脳髄から魂からが、熱く激しく揺さぶられ、そうして正しく定義付けられていく。





「ああ、黒い服って、濡れちゃうと目立ちますね……」







 ※※※



「遅ればせながら主様、わたくし、ソードシスターのファスと申します。宜しかったら貴方様のお名前、教えて頂けませんか……?」


すりすりと猫の様に甘えてくるファスを撫でながらタツヤは答えた。


「俺はタツヤだよ。結城竜也」

「タツヤさま……」


うっとりと、甘いものを舌で転がすように名を繰り返すファス。

ちょっと掠れさせて舌っ足らずにさせてしまった声が、上機嫌でタツヤの名前を自身に染み込ませる様に紡いでいくのを聞いていたタツヤだが、ふと指先が淡く膨らませてしまったファスの下腹部に触れる。


「そういえば、この、ファスのお腹に浮んできた紋様って何なんだろ?」

「ああ、それは」


ファスはくったりと力の入らぬ指で何処か隠微に、己の下腹部を撫でた。二人の指が絡む。潤んだ萌葱色の瞳は何処か誇らしげに見えた。


「わたくしが、タツヤさまに救済された証です。

 あら、1と数が振ってありますね。

 わたくしが貴方様の初めて、です。

 うふふ、うれしいです~」



  救済刻印ノ1 ファス・ファタール

  習得接続魔法 一瞬千夜の蜜月状態(サウザンドハネムーン)







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