前世編 1話
黒髪ぱっつんストレート少女は可愛いですね。
「…パニック障害。うつ病…?」
黒い瞳から大粒の涙を幾つも溢しながら、医師の前に座る少女は呟いた。
『ええ。発汗や激しい動悸。
頻脈が発生してですね、この前では死んでしまうっ!となる、まぁ、心の病気ですね。
それにしても…生まれつきの心臓の病気を持って…。』
『そ…そんな。
治るんですか!?この子は未だに病院から出たことがないんですよ!?
なのに、障害なんて…ストレスなんて与えてません!』
少女が座る椅子の隣に立つ、宝石と上質な皮のコートに身を包んだ女性が叫ぶ。
周りの看護師達が女性を諫める。
『お母さん。心中お察しいたします。
hspの可能性もありますので、まだパニック障害と決まったわけではありません。
少量の薬の投与を始めようと思います。
ストレスを溜め込まなくてもなる場合がありますので、お母さん自身も気に病まないでください。』
『はい…。
あの、お医者様?優奈は…治るんですか?
外で遊べる日が本当に来るんですか…』
女性は少女−−−優奈を心配する素振りを見せながら、ダイヤのネックレスを裏返し、紅玉見せる。
医師は眼鏡を左手の親指で掛け直す。
女性と医師が、今後の相談をするからと看護師と優奈を部屋の外に出す。
看護師達は三人。
其の内の一人が、車椅子に優奈を乗せてエレベーターに乗った。
ポーン。
軽快な音は、8階に到着した合図。
無言で車椅子を押し、何枚もの硝子板に阻まれた部屋に着く。
『優奈ちゃん。
今日は歩ける?』
顔を覗き込みながら、看護師は言う。
「うん。
大丈夫です。ありがとう。」
『そう。じゃあ立ってね。
車椅子はいつもの場所に置いておくわね。
またね。ばいばい』
「お姉さん。ばいばい」
硝子板を閉じて看護師は去っていく。
二枚目の板の扉を開けて、中に入る。
(今日は朝に発作が出ちゃったから、カーテンが空いてないね。 暗いね。)
医師用の椅子を窓まで引き摺り、椅子に乗りカーテンを開ける。
椅子を戻して、本棚からノート、引き出しから筆箱を取り出し、ベッドの机上に乗せる。
ノートを開く。
そのノートは、所謂黒歴史ノート。
浄化の魔法使い、トレーネ・テォア・アクアマリンを自分に見立て、小説を書いている。
(昨日は、トレーネが伝説の龍に会ったんだよね。
名前何にしよう。属性は何にしよう。
私の使い魔にしよう!
火の龍にしようかな。
フレイム・ドレイクーン!)
脳内で話を描き続け、二時間程時間が経つ。
夢中で書いていたが、硝子板を叩く音で意識が戻った。
「優奈!優奈、大丈夫か!?」
「えっ、大丈夫です!」
ノートと筆箱を咄嗟に隠すが、扉に鍵をかけたことを思い出し、ベッドから降りた。
「蓮?ちょっと待っててね!」
ノートと筆箱を仕舞い、扉を開ける。
「おせーぞ!
死んじゃったかと思ったじゃん!」
目を赤くしながら、優奈よりも年上の少年、鈴原 蓮が話しかける。
「ごめんってば。
どうしたの?」
蓮と優奈は特別解離室という、集中治療室に直ぐ行ける部屋に居る子供だ。
こうして偶に遊んでいるが、大抵は互いの部屋かエレベーターホール近くの遊び場のみで遊んでいる。
「今日は屋上開放日だぞ!
この前屋上に行ったから、場所分かるぞ!行こう!」
「本当!?
今日は天気がいいもんね!屋上で何しよっか!」
「分かんない!
取り敢えず行こうぜ!」
「うん!」
お読みいただきありがとうございます!
のろのろですが、少しずつ投稿していく所存でございます…!