第92話 ジャッジメント攻防戦
「レイちゃ~ん、来たわよ~!」
芽奈は大声で叫ぶ。レイちゃんとは恐らく麗華のことだろうか。麗華は顔を赤くして芽奈の下へ走る。
「ちょっ、芽奈姉さん、人前でその呼び方はやめてよ!」
「あら、つい。うふふ、ごめんなさい。」
「あの・・・ごめんね、急に呼び出しちゃって。」
「いいのよ、今日はオフだし。アールグレイティーと林檎タルトを堪能しながら優雅な休日を送ろうとしてただけだから。」
「・・・なんかホント、ごめんね。」
清波姉妹があれこれ話しながら、皆の前に歩みを進める。
「・・・ということで、話は途切れたけれど私は新審判に芽奈姉さんを立候補させるわ!」
麗華は自信満々に言った。まるで勝ち誇ったかのように。すると、先ほどまでの余裕はどこに行ったのか、動揺している様子の英知が口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってよ。だから、今更審判を変えることに何の意味が・・・」
「芽奈姉さんは、私と英知の姉。一方のチームにだけ顔見知りの人間が審判するよりも、両チームに1人ずつ審判の身内がいるほうが、よっぽど公平だと思わない?」
「い、いやそうかもしれないけど・・・」
確かに表面上は今よりも公平性に溢れている。だがしかし、内面を見るとそうではない。ゆえに英知は動揺しているのだ。そして麗華も、その理由を知っている。そう、それは
芽奈姉さんは、麗華に甘い―――
昔からそうだった。ケーキが余ったときも、芽奈は率先して麗華に余りを食べさせる。友達同士で旅行に行ったときも、芽奈は麗華にだけ個別にお土産を買ってくる。芽奈はいわゆるシスコンだった。
その上で、芽奈が審判になってしまうと、彼女はたちまち麗華のチームに軍配を上げ続けるだろう。英知はそれを恐れた。そして麗華はそれを利用しようとした。とある姉弟たちの家庭内事情格差が、この試合の勝敗を大きく変えようとしているのだ。
いわば、この審判変更の有無も一種の試合のようなものだった。負けるわけにはいかない英知と麗華は熱く討論し合う。
すると、芽奈が現審判の金子を見て、何かに気づいたかのように口を開いた。
「あら、あなた金子 万裁さんの息子さんじゃありませんか?」
「!?」
そう言われ、審判・金子はギョッとし、今まで冷静だった顔が少し青ざめた。
「め、芽奈姉さん?何を言って・・・」
「あーやっぱり!金子 審くんよね?あなたのお父さんとは職場でたまに会うから色々話してるのよ。あなたの写真もたまに見せてもらってるから、すぐ分かったわ!」
「あ、いや、その・・・」
「でもおかしいわね。今は期末試験の結果が悪かったから、家で勉強しているはずだったんじゃ・・・?」
「・・・っ!?」
「もしかして、ご両親が2人ともいま出張で家にいないから、サボってたりして・・・?」
芽奈の優しい表情から繰り出される背筋の凍りつく言葉に、金子の顔色は一気に青ざめた。
「そっ、そんなことありませんよぉ!ちょっと息抜きに散歩してただけですよぉ!おっ、そろそろ家に帰ろうかなぁ!!!」
「あら、そうだったの?」
「え、えぇ!そうなんですよぉ!!!」
焦った様子で言葉を発した金子は、急いで荷物をまとめて帰る準備をする。英知は必死にそれを引き留めようとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!話が違うじゃないか!」
「すまない英知くん、親がいないときに遊んでいたと親父にバレるわけにはいかいんだ。」
「わ、分かった。もうあと1時間、いや30分でいいから待ってくれ!」
「・・・バイト代は一銭もいらないから。本当にごめん。」
そう心から申し訳なさそうに言った金子は、全速力で走り去っていった。絶望の表情を浮かべた英知を置き去りにして。
そして審判の金子が失踪したため、新審判として麗華たちの姉・芽奈が採用された。




