第91話 女神たちの加護
謎の落とし穴に落ちるというアクシデントに見舞われた松山に対し、英知は30分の休憩を提案してきた。「お前らの掘った落とし穴のくせに・・・」と怒りの感情を隠しながらも、松山たち3人はその提案を受け入れた。
「松山先生、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ麗華。ちょっと取り乱してしまった、心配かけて申し訳ない。」
先ほどのマジギレモードから一転、落ち着きを取り戻した松山は木陰のベンチに大人しく座っている。
「しかしこれで確定したな。奴らは勝つための策を用意してきている。恐らく、これからの試合、全て奴らにとって有利に働くと見える・・・」
「そうだな、いたた・・・」
刹那の考察をよそに、松山は右足首を押さえ痛みを訴えた。そこに麗華が口を開く。
「足が痛むんですね?大丈夫です、先ほど保健の先生を呼んでおいたので。」
「保健の先生・・・あっ!」
松山は思い出した、この学校にいる、あのキャバ嬢のような保健の先生、荒川 留美もとい「モデルミ」のことを。思い出した途端、松山のテンションが急激に上がる。麗華はその松山のサインを見逃さなかった。
「どうしたんですか松山先生、鼻の下を伸ばして・・・?」
「え、あ、いや、なんでもないよ・・・なんでも・・・」
「ふ~~~~ん・・・」
麗華は笑顔を浮かべているが、松山にはそれが笑顔に見えなかった。松山は最近感じ始めてきた。麗華が少しずつ怖くなってきたことに。
「は~~~~い松山先生ぇ~~~、怪我したって聞いたから来てあげたわよぉ~~~!」
そこにモデルミが、白衣ではなく私服姿でグラウンドを駆けてやって来た。
「あ、荒川先生!?なんで私服なんですか?」
「え~だって松山先生ぇ、いま夏休みですよぉ?ザ・サマーヴァケィションですよぉ?わざわざ白衣着るわけないじゃないですかぁ~?」
「・・・?そ、それもそうですねぇ~!あははは・・・」
「うふふふふふ!!」
知能低めではあるが楽しい会話をしていると、松山はふと禍々しい視線を感じた。言わずもがな麗華だ。今にもモデルミを殺めてしまいそうな面持ちでこちらを見つめていた。
「それでは松山先生、ゆっくり休んでいてくださいね・・・」
静かに言うと、麗華はどこかへ行ってしまった。どこかへ行ったとはいえ、モデルミと何か変なことをしようものなら、二度と笑えない人生のレールに車線変更されてしまいそうな気がしたから、特に何もちょっかいも出すことなく、治療を受けた。
そして休憩時間が終了し、両チームのメンバーが集合する。そこで英知が口を開くより前に、麗華が前に出てきて言った。
「試合の前に1つ。審判の変更を許可していただきたいのですが。」
なにぃ?と英知が不満そうな顔をする。英知に喋る暇も与えることなく、麗華は続ける。
「その理由は単純明快。その金髪の男に公平性が見られないからよ。そいつはあからさまにそちらのチームに有利になるように働いているわ。」
「おいおいおいおいおい。麗華姉さん、いくら自分たちの状況が芳しくないからといって、審判のせいにしちゃあいけないなぁ?それを下級魔術師の遠吠えって言うんだよ~?彼は100%公平なジャッジメントをするのさ。」
「そう、じゃあその金髪よりも公平感のある人を新しい審判にしようって言ったら、あなたはどうする?」
「フッ、今更審判を変更することに意味があるとは思えないな。」
「ちっ、小賢しい愚弟が・・・」
清波姉弟の審判変更に対する言い合いが続く中、「お~~い」という声がグラウンドに響く。
「あ、来た。」
麗華は後ろを振り返る。そこには麗華と英知の姉、清波家の次女である「清波 芽奈」が大人の女性感のある私服に身を包みながら、「お~い」と叫んでいた。
予想外の来客に、場は一時変な空気になった。それはまるで、遠足に親がついてきたかのような。




