第90話 茶番
「天海、ゴール!!SeReKaチームの勝利!!」
天海がゴールを迎えると、英知が張り切った声で叫ぶ。SeReKaチームは何かの大会で優勝したみたいな拍手喝采に満ちている。
「ちょっと!何よあの落とし穴!あんなもの用意するなんて卑怯じゃないの!!」
SeReKaチームに対して歩み寄り麗華が真っ当な抗議をする。しかし英知は悪びれる様子もなく返答する。
「何を言っているのか。失礼だなぁ。我々が掘ったという証拠はあるのかい?」
「証拠もなにも、こんな都合良く落とし穴がグラウンドに用意されてるわけないでしょう!?逆にアンタら以外が掘ったものだったら心底恐ろしいわよ!心底!!」
「・・・などと申しておりますが、どうですか審判?」
英知は振り返り、金髪ピアス審判・金子に問う。
「・・・証拠がない以上、麗華嬢の申し入れは承認できない。」
自己紹介以来久しぶりに口を開いた金子は、冷静に事の判断を下した。
「くっ・・・」
「審判の言うことは絶対だからねぇ。残念だったね姉さん。」
ダメ押しに煽りを入れる英知に、麗華の怒りは蓄積していく。怒りに任せて英知に突撃しそうなところに、刹那が介入する。
「落ち着いてくれ麗華殿。冷静に、今は退くべきだ。」
「・・・!」
「私の考えが浅はかだった。申し訳ない。」
そう言って刹那は頭を下げた。それを見かねた麗華は、刹那に言われたとおり落ち着きを取り戻す。
「ごめんなさい、ちょっと感情的になりすぎたわ。でも、何故あなたが謝るの?」
「それは・・・」
「こうなることを予測していなかったから、か?」
刹那と麗華の会話に、落とし穴から這い上がりながら松山が割り込む。
「それは、その・・・」
「いいんだ、分かってる。俺もこの事態は考えてもなかった。責任は俺にもある。」
松山は被った泥を払い、フォローしながら刹那のもとへ近づく。
「あの審判は、落とし穴による不正を正当化するためのいわばブラフ。登場から今まで試合の進行にほとんど携わらない置物のような存在のくせ、問われた不正疑惑に対して相手に都合の良い必要最低限の回答しかしないのがいい証拠だ。まったく上手くできてるよ・・・」
「松山先生・・・」
麗華は感じ取った。松山は今、確実にキレている、と。
「真剣勝負?誇りを賭けた戦い?笑わせてくれるじゃねぇか。よくもそんな空言をほざけるもんだ、尊敬するよ。お前らのことだから本当に真剣に、誇りを賭けて戦おうとするのだろうと思っていたんだが。いや、信じていたといったほうが正しいな。だがそれはフェイクだった。心底裏切られた気分だよ。最初っから正々堂々戦おうなんて気はなくて、イカサマとそれを正当化する最高裁決者を用意した上で、俺たちを屈服させる。これがお前らの狙いだったんだな。」
誰かに伝えようとするわけでもなく、独り言のように、松山は長々と静かにつぶやく。刹那と麗華は、ゆっくりと近づいてくる松山に恐怖する。静かに憤る松山に修羅の姿が重なったからだ。言葉にできず、また尋常ではない緊張が2人を襲う。
「・・・言うなればこれはお前ら自身が勝つための、俺たちが負けるための、結末の決まりきったクソ茶番だったってことでいいんだな。」
「よく分かりませんね。」
英知は余裕そうに返す。
「・・・それがお前らの下した結論か。じゃあいいさ、心置きなくお前らを潰しにいくが、構わないな?構わねぇんだよなぁぁ!?」
英知の姿を見据えながら松山は怒りのまま叫んだ。けたたましい怒号が周囲に響く。それでもなお、余裕の表情を失わぬ英知は答える。
「望むところですよ。」
「後悔するなよ・・・」




