第79話 再会と再壊
「榊原さん、この資料についてなんですけど・・・ってあれ?」
数枚の資料を手に診断室に入った那須野であったが、そこにいるはずの榊原がいない。
「おかしいな、榊原さん今日は休みの日じゃないはず・・・。ん、これは・・・」
机の上に小さな紙が1枚置いてあることに気づき、それに目をやる。その紙にはこう書かれていた。
『潮風を感じたいから海に行ってくる。すぐ戻る。』
榊原直筆の置手紙であった。それを読んで、那須野は笑った。
「榊原さんったら、素直じゃないんですから。面倒なのは一体誰なんでしょうかね。」
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「松山先生!!!」
麗華は咄嗟に松山に抱きついた。これは不可抗力である。もし不可抗力でないと言う者がいれば、出るところに出てもよい。麗華はそう思っていた。
「ゼウs・・・松山先生!!」
英知も気づき、松山のもとに走る。ゼウスと言いかけたが、今は松山に再び会えたという嬉しさから、素直に松山の名を呼んだ。
「君たち・・・なんでここに。」
「君たち・・・?」
不思議そうにつぶやいた松山の言葉に反応した2人は、口を開いたまま動かない。
「先生、思い出したんですか、私たちのこと・・・!」
「・・・え、あぁ、うん。思い出したよ。姉の清波麗華に、弟の英知。」
「・・・!!」
自分たちのことを憶えている松山を目の前に、麗華と英知は人目をはばからず泣き出した。感動の再会とはこのことを言うのだろう。
「・・・あの、先生はなんで退院するなり海岸に来たんですか!?」
涙が止まり、落ち着きを取り戻した麗華は率直な疑問を松山にぶつける。
「あぁ、うん。たしかに君たちのことは思い出したんだけどね。」
松山は意味深に一拍おく。
「思い出せないんだ。君たちの学校に赴任する前のことが。」
静かに言うと、2人はしばらく黙ったまま、何も言わなかった。いや、言えなかったと表現するほうが正しい。
沈黙する3人の間を、海岸の喧噪さが通り抜ける。




