第78話 追跡のシーサイド
蒼島海岸は水上記念病院から車で30分の所に位置する、都民からも人気のあるビーチである。
松山がそこに行ったという情報をもとに、麗華と英知は自転車を漕いで20分で到着した。お前ら自転車部に入れよと言わずにはいられない走りっぷりである。流石に無理をしすぎた、と2人は息を切らして砂浜に膝と肘をつく。
今日もとても天気が良く、暖かい土曜の昼ということで、蒼島海岸は家族連れやカップルなどで賑わっている。
余談だが後者は本当に忌まわしい。もう本当に砂浜に埋めてやろうかと心から思う。「きゃー海冷たい~」とか至極当然のことをほざきながら不可抗力と言わんばかりに彼氏に抱きつくなどという気色の悪い馴れ合いを恥じらいなく公共の場で見せつけるゴミみてぇな輩がいるせいで陰キャが発狂し非行に走るのだ。
ゆえ、現代日本で起こる8割の軽犯罪はリア充の所為ということでファイナルアンサー。
「れ、麗華姉さん。あれ、あそこにいるの・・・!」
「え、ま、ま、松山先生!?」
英知が興奮した表情で指さした先には、ニコニコしながら写真撮影をするメイドさんの姿があった。麗華は「ふざけんな」みたいな顔で英知の背中を軽く叩く。優しい。
すると今度は麗華が口を開く。
「え、英知。あそこにいるのって・・・!」
「え、松山先生いた!?」
麗華が興奮した表情で指さした先には、ラフな格好をしたイケメンの男性がいた。英知は目を細める。
「・・・誰?」
「えっ、アンタ知らないの!?声優の『御色寺 ケン』よ!深夜アニメ『Boys and Boy』通称『ボイボイ』の主人公の『音鴻巣 喜一郎』の声優さんよ!アンタだってアニメ見てるんだから知ってるはずでしょ!?有名人でしょ!?」
「汚職事件?男好き?いや、ぼく基本的に男性声優に興味ないから知らないし。しかもボイボイってあの界隈で腐女子向けアニメって言われてるやつでしょ?僕そっちの気ないからなぁ・・・」
「はっ、ちげーし、私別に腐女子とかじゃないし、腐女子向けアニメとか知らねーし、言いがかりやめてくんないこのにわかオタクが!」
「だーれがにわかオタクですか?姉さんこそアニメは見るけど円盤とか全然買わないにわかのくせに!」
「ハァ?そんなの関係なくない!?」
口調が荒くなる麗華とそれに乗せられて言い争いを始める弟。高校生とは思えないしょうもない口喧嘩がしばらく続く。
「・・・って、アンタと言い争ってても仕方ないわ!サインもらってくる!!」
しびれを切らした麗華は、声優・御色寺 ケンに向かって走り出す。
「ちょっと、こんな人多い所で走ると人にぶつかるよ・・・」
「いたっ!」
英知の冷静な注意むなしく、麗華が砂浜を歩く通行人とぶつかった。両者浜辺に手をつく。
「ほ~ら言わんこっちゃない。」
「す、すみません、大丈夫ですか?」
麗華は焦りながらもぶつかった通行人に手を伸ばした。ここで麗華は衝撃を受ける。
「あ・・・ま・・・」
麗華は気づいた。ぶつかった相手が、はるばる追いかけてきた松山先生であることに。




