第76話 勝機は暗躍にあり
「な、麗華姉さん・・・、どうして・・・」
英知は不思議で仕方がなかった。なぜ麗華姉さんが、SeReKaの2人よりも先に病院に着いたのだ。追いつくはずがない。まったくもって不気味だ。英知がそんなことを考えていると、麗華は口を開いた。
「解せないという面持ちね。なぜ私がアンタの仲間より先にここに辿り着いたのか・・・。なぜアンタの仲間がなかなか来ないのかと・・・。それが不気味と・・・、ね。」
心を読まれた英知は恐怖する。それと同時に、彼女が「心読者」であるという確信を改めて持った。
しかし、感心している場合では無い。問題は「麗華姉さんが心を読める」ことではなく「仲間が来る前に麗華姉さんがここに来た」ことなのだ。
「哀れなアンタに特別に教えてあげるわ。先に言うと、アンタの仲間はここには来ないわよ。」
英知が問う前に、麗華が残酷な事実を告げる。英知は姉が何を言っているのか分からなかった。しかし、1つの予感が彼の中を駆け巡った。
「・・・2人に、手を打ったな?」
「フフ、せ~か~い♪」
余裕の笑みで麗華は答える。
「先に家を出たアンタに、女の私が追いつくなんて不可能。そんなこと小学校低学年の子供でも分かるわ。だから私はアンタに追いつくことはすぐに諦め、すぐに手を打った。簡単なことよ、アンタの仲間2人に電話をかけたのよ。
『病院に向かっているのなら、すぐに引き返しなさい。病院に行けば、生徒会長特権でアンタを学校の上層部に迷惑行為をしていると言いつけるわよ。』
・・・ってね。2人とも震えた声で従ってくれたわ。ま、念のために急いで病院に向かったけれど、集まってないところを見ると、やはり素直な子たちだったようね。」
英知は唇を噛む。「なんて卑怯な、越権だ!」と思った。しかしその仕草を見て、麗華は彼の心を読んで言う。
「私のことを『卑怯』だなんて思わないでね。そんなこといったら、何も知らない患者に、いきなり名前を書かせて顧問にさせようとするほうが、よっぽど卑怯だと、私は思うのだけれど?」
ぐうの音も出ず、英知は立ちすくむ。敗北だ。自分は敗北者だ。だが、ここで終わってしまってはずっと敗北者のままだ。それは恥だ。男としての恥だ。余裕を絶やさぬ圧倒的勝利者の麗華に一矢報いるためにも、諦めてはならない。
魂に唆されるように、英知は決心する。勝利を確信する麗華の隙を突き、英知は病院に向かって走り出した。
「な、なにっ!?」
「フッ、油断したね麗華姉さん。たとえ仲間がいなくても、僕1人だとしても、SeReKaの夢を諦めるわけにはいかないのだ!!!」
英知は決心したのだ。1人で松山のもとに向かい、強行突破で名前を書かせようと走り出したのだ。
「はっはっは、出遅れたねッ!先に病室に辿り着くのはこの僕だ!!!」
余裕を再び取り戻す英知はいよいよ病院内に入ろうとする。しかし、それはできなかった。
「ぐぴゃあああ」
情けない声を発して、英知は倒れる。開かない自動ドアに思い切り正面衝突したのだ。それを見て、麗華は思い出した。
―――早朝って、まだ病院開いてないわよね・・・。
必死こいて英知を追いかけてきたが、そもそも病院が開いてないのだ。当然面会もできない。アホくさ、と麗華は肩の力を抜く。骨折り損のくたびれもうけとはこのことだろうか。
2人の対決はここで一度幕を閉じる。勝負は面会可能時間まで持ち越された。英気を養う麗華と、自動ドア前で気絶する英知。この勝負を制し、先に松山のもとに辿り着くのは、果たしてどちらなのだろうか。




