第73話 黄金の観測者
「ある日エリートは、とある高校に赴任することになりました。言葉は悪いですが、そこはとても頭の悪い生徒がたくさんいる学校です。しかしエリートは、そのような環境においても、自らの才能を振り絞り、彼らのために一生懸命授業に励みます。」
ミツルは目を閉じたまま、適当に話を聞く。昔話は続く。
「そんな彼の前に突然、悪者たちが現れます。悪者たちは、生徒を人質にとり、エリートを脅します。しかしエリートは脅しに屈することなく、たった1人で悪者たちに立ち向かいました。その結果、見事悪者たちを打ちのめし、人質を無事救出したのです。エリートは学校中から賞賛されました。」
ミツルは目を閉じたまま、話を聞く。昔話は続く。
「しかしそんな彼を再び悪者たちが襲います。今度は仲間をさらに増やし、その上女子生徒を人質にとったのです。また、悪者たちを返り討ちにするのかと思いきや、エリートは彼らに攻撃をすることはしませんでした。それには、人質の女子生徒のために、乱暴な手段を使わずに状況を解決しようという彼の優しさがあったのです。エリートは大きなダメージを受けましたが、無事に女子生徒を助けることができました。」
昔話は続く。
「その傷も癒えてきた頃、エリートは何者かに背後から殴られ、どこかへ連行されてしまいます。そして、その次の日、彼は病院で目を覚ますことになるのでした。・・・あら?」
「・・・。」
彼女は、ミツルが眠っていることに気がついた。
「すごい汗、拭いておきますね。」
彼女はタオルを取り出し、ミツルの汗を拭う。心なしか彼の顔は赤くなっている。
「さて、私はそろそろ失礼します。」
汗を拭き終えた彼女は荷物をまとめて帰ろうとする。帰り際、彼女はふと窓に映える夕焼けを眺めながら、眠っているミツルに語りかける。
「あなたが記憶を忘れてしまっても、私が憶えています。私はあなたの観測者ですから。だから、これからも安心して無茶して下さいね、私の大好きな松山先生。」
観測者を名乗る彼女は、言いたいことを言い終えると、静かに病室を去った。
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「ごめん美奈子、待たせたね。」
「どうだった、先生の様子は?」
「んー、元気そうだったよ。」
「へぇよかった。何を話してきたの?」
「ちょっと昔話を」
「えーなにそれ、変なの~」
「まぁ昔話って言っても、戦争はとっくに終わってるし、近代産業も・・・」
「はいはい分かった分かった。まったく、ほんとアンタって変わってるよね、シズク。」
「ん、それって褒めてる、貶してる?」
「どっちもだよ。」
友人と談笑しながら、村雨学院高校の2年4組、金森シズクは病院を後にした。




