第72話 アフターグロウの憂鬱
長かった1日に終わりを告げるように、綺麗な夕焼けが病室を照らす。窓越しに映る黄金世界を眺めながら、ミツルは今日のことを振り返る。
突然キレる怖い看護師。自分をゼウスの生まれ変わりだと言い張る謎の3人組。言動がヤバくて怖い恋人。金を払えと言ってくる怖い男たち。あれ、大抵怖い人たちしか来てないな。ここでミツルは1つの仮定に辿り着く。
「俺は、怖い人しか寄りつかないような悪い人だったのかな・・・」
「そんなこと、ないですよ。」
ふと口にした仮定を、優しく否定する声が聞こえた。ミツルが声のした方に振り向くと、そこには先ほどのヤバい女子生徒と同じ制服を着た、黒髪の女子高生が立っていた。彼女は優しい眼差しでミツルを見ている。
「あなたも、私のお知り合いですか?」
「いいえ、私はあなたのお知り合いではありません。『今の』ですが。」
ミツルは彼女の言っていることが理解できなかった。それを察したのか彼女はフォローを入れる。
「すみません、言葉足らずでしたね。正しくは『私は今のあなたのお知り合いではない。』、つまり私は今のあなたを知らないということです。」
フォローしたつもりが、ミツルは更に困惑してしまった。彼女はフォローにフォローを入れる。
「簡単に言うと、私は過去のあなたは知っているということです。お分かりいただけましたか?」
ミツルは熟考する。与えられた情報をもとに神経を集中させて、やっとのことで彼女の意図する真実へと辿り着く。
「・・・要するに、記憶を忘れる前の俺のことは知っているけど、記憶を失ってしまった今の俺のことは知らない、ということですか?」
ミツルが、答えになっているようでなっていないような微妙な解答を告げると、彼女は小さく微笑んで言った。
「そういうことです。回りくどいことを言ってしまって申し訳ありません。でも、もし先ほど私があなたのお知り合いと言っていたら、以前にも記憶を失ったあなたに会いそれを認知しているという嘘の発言をしたことになってしまっていたので、お互いに無益な結果にならないよう配慮したつもりだったのですが・・・」
めんどくせぇよ。結果的に回りくどい会話になっているということは、ミツルはあえて言わなかった。それを口にすると、更に難しい話が展開してしまうような気がしたからだ。
そんなことよりこの女子生徒は一体何をしに・・・
「私が何をしに来たのか、まだお伝えしていませんでしたね。」
この女、まさか心を読めるのか・・・とミツルは戦慄した。
「私、少し昔話をしに来たんです。」
「昔話?」
またよくわからないことを言い出すなぁ、と思いながらも、ミツルは特に詮索しない。
「むかーしむかし、とは言っても戦争はとっくに終わってるし、近代産業も発達してるし、バブルも崩壊した、官僚達の揚げ足の取り合いに国民がうんざりしてるくらい最近のむかし、エリートがいました。」
ミツルは話の導入で既に聞く気を奪われた。目を閉じ、どうせこの人もよく分からないことを言っては帰って行く人なんだろうなと思った。昔話は続く。




