第71話 キャストオフ
榊原の手によって、1分もしないうちにクレイジーデッドの雑兵共は全滅した。
「さぁ君たち、さっさと病院から去れ。無様に逃げるほどの体力は残してあるつもりなのだが?それとも、急所を私の全体の30%ほどの力で殴られただけで動けなくなるほど貧弱な身体で日々品性下劣な不良行為にはげんでは人生を無駄に過ごしているのか?」
台本でも用意してきたかと疑うほどの、冷徹で強烈な煽りを雑兵共に浴びせていく榊原。彼の身体には少しも怪我のあとがない。不良を何人も倒した後とは思えないくらいの佇まいである。
「・・・っそ、覚えてやがれ」
分かりやすい捨て台詞を吐いて、雑兵共は辛くも退散していった。
「まったく、面倒な奴らが来たものだな。」
「あ、あの榊原さん。」
一件落着したところで、那須野が榊原に声をかける。
「この度は助けていただき、ありがとうございます。手間をかけさせてしまい申し訳ありませんでした。」
「ん。」
那須野からの感謝と謝罪の言葉に、榊原は困った表情を作る。
「何を言っているんだ。彼らに対する君の応対は完璧なものだったじゃないか。暴力も振るわず冷静に物事を進めるという、看護師として正しく、立派な応対だった。君が謝罪をする必要など微塵もないぞ。」
榊原の発言に、那須野は頭に?マークを浮かべる。疑問に思った那須野は榊原に問う。
「応対は完璧って・・・なんでそれを知っているんですか?」
「見ていたからね、カメラで。」
そう言って榊原が指さす先に小さい監視カメラが設置してあった。
「え・・・か、監視カメラとか病室に設置したらダメなん・・・」
「バレなければ犯罪ではないのだよ。それに、松山さんにもしものことがあった時に何かと役立つだろう。今みたいな不良どもが殴ろうとした時を録画しておけば、こちらが不利益を被ることになった場合に責任を免れる良い証拠になる。」
記憶喪失の患者になにかあった時の責任を負うくらいなら、監視カメラがバレた時の罰くらい痛くもかゆくもないのだろうと、呆れながら那須野は笑った。
「・・・結局は私を試してたってことですか?」
「そのつもりはなかったが、偶然そのような状況になったからそうした。もっとも、もし君が駆けつけていなかったら朝倉くんに連絡して駆けつけてもらうつもりだったから、心配は無用だ。私もただ監視カメラを眺めているだけではない。」
「・・・まったく、患者さんが病室にいたらどうするつもりだったんですか。」
「・・・?見られていたとしても、私はあくまで野蛮人への正当防衛をしただけなのだから、胸を張ればいいだけの話ではないか。」
「罪悪感なしですか!?」
松山以外の患者が一切いない病室、看護師と医師が少し楽しそうに話を続ける。
そこに「あの~」と恐る恐る病室に入って来る者がいた。
「さっきの不良とのやりとり、録画してたんですけど・・・、余計でした?」
その正体は、カメラを持って複雑な笑みを浮かべている朝倉 姫紀だった。
「いや、一応証拠は撮っておいたほうがいいかなと思ったんですけど、まさか監視カメラを設置してるとは思いませんで。あ、すみません、すぐ仕事に戻ります!」
自らの業務を放棄し、独断でカメラで撮影したことに多少の罪悪感をおぼえた姫紀は慌てて立ち去ろうとする。
「はっはっは、まったく君たちは2人揃って優秀だな。」
榊原が笑った。いつもは無愛想で滅多に笑うことのない榊原が高らかに笑った。それを目の当たりにした那須野と姫紀も、つられて笑った。
肝心の大事な患者が気を失っていることに気づかず、勤務中の医師たち3人は子どものように笑っていた。




