第66話 Sadistic Eurobeat
「・・・え、あの、恋人ってどういう」
目を覚ますたびに衝撃的な事実(ほぼ嘘)を突きつけられ、もはやミツルの頭は整理ができていない。
「ど、どういうって・・・、そりゃあ付き合ってるってことに決まっているでしょう・・・。」
何を当然なことを、という目でミツルを見つめる麗華の顔は、かつてないほど真っ赤だ。
「そんな・・・」
そんな、というミツルのつぶやきに麗華は顔を青くする。自分と付き合っているという事実がそんなに嫌なことなの・・・?麗華は急に虚しくなった。
嘘をついてまで恋人詐称をした上に、その事実を嫌がられてしまったのだ。虚しい以外の何物でも無い。ようやく罪悪感をおぼえたところで、取り乱した彼女の中にいつもの真面目な麗華が戻ってきた。そして、ミツルに前言撤回をすることにした。
「ご、ごめんなさい。実は・・・」
「・・・こんな綺麗な人と付き合っていたことすら忘れてしまっていたなんて・・・!」
罪悪感なんて知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
記憶喪失者の悪意のないナチュラルなフェイントに麗華は再び暴走を始めた。しかも、先ほどよりも更に強い感情が芽生えてしまった。“こんな綺麗な人”というワードが麗華の中にとんでもない悪魔を召喚させてしまったのだ。
「し、失礼。」
そう言って麗華は後ろを向く。興奮のあまり鼻血が出てきたのでティッシュで拭っているのだ。感情も鼻血も抑えきれなくなっているのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
ミツルは枕元にあるティッシュを何枚か取り出して麗華に向けて手を伸ばす。
「大丈夫よ。ありがとう。」
麗華は礼を言い、ティッシュを受け取る。気持ちの良い昼下がりに、患者に身体の異常を心配される女子生徒の図が、とある病室の一角にあった。
―――――
鼻血が止まったところで、ミツルは麗華に問いかける。
「あのそういえば、さっき何か言いかけていませんでしたか?実は、って」
「あぁ、なんでもないの、気にしないで。」
麗華は咄嗟に、謝罪して真実を告げようとしたことを無かったことにする。と、同時に麗華に1つの違和感が芽生えた。それも、麗華自身に。取り乱して嘘を言ってしまったことはもちろんだが、それ以外にも違和感があるような気がしているのだ。なんというか、何かが違うような、おかしいような。麗華はその違和感の正体を考える。
「ほ、ほんとですか・・・?何か隠してたりしてませんか・・・?」
「あぁっうるさいわねッ!!いま考えてるんだから静かにしなさいよッ!!」
「ひぃっ!」
「・・・ハッ!?」
このやり取りを経て、麗華の中に電流走る。そうだ、違和感の正体はこれだ。
さっきから私、口調が変なんだ・・・。いつも家族以外には丁寧な言葉遣いをしているのに、いまの言葉遣いはなんというか、乱暴っていうか・・・、Sっ気がある・・・!?
もしかして、記憶を失ってリフレッシュしたあどけない先生の表情によって、どことなくいじめたいというか、強い言葉で圧倒させたいみたいな、S心が目覚めてしまったとでもいうの?ふふ、まさかね・・・
「ご、ごめんなさい。」
「・・・っ!」
なんてこと・・・!私の言葉によって怯えている先生を見て、この上ない優越感というか満たされるような感覚に襲われてしまうなんて!まずい、これじゃあまるで私が変態みたいになってしまうじゃない!仮にも私は村雨学院高校の誇り高き生徒会長なのよ!
あれ、生徒会長ってことは、生徒会長室に松山先生を呼び出していじめたり・・・って何を考えているの私は!!?・・・でも、生徒会長ってことは生徒の中で1番偉いのだから、1人の教師を責めあげることになんの問題点が・・・って何を滅茶苦茶なことを・・・!ていうかもう、いっそのこと・・・いっそのこと・・・
「滅茶苦茶にしてあげようかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
謎のシャウトの後、顔を真っ赤にして病室から走って逃げていく女子高生の目撃情報が多々寄せられた。




