第64話 破壊と再生の聖痕(スティグマ)
「ちょっと何を言っているのか分からないのですが・・・」
ミツルは困惑した表情でハーデスに言う。ハーデスは「仕方ない」と言わんばかりの様子で話を再開する。
「まぁ無理もありません。いきなりそんなことを言われて信じることができるだなんて思っていません。そこで、それを証明するための資料があるのです。」
そう言ってハーデスは小さな新聞のような冊子をミツルに渡した。そこには「新世日報」とタイトルが書かれていた。ミツルは1つの見出しを読み上げる。
「・・・ゼウスの使徒『松山孝則』の偉業!極悪不良軍団を成敗!」
その見出しのあと、クレイジーデッド壊滅の一件に関する事細かな内容が記されている。残念なことに、それは8割方真実からかけ離れた内容だった。『光の剣』で幹部を浄化させたとか、『致命詠唱』で一騎当千したとか。
しかし、何も覚えていないミツルは、新聞に自分の名前が載っているということに大きな衝撃を受け、その目に疑いの文字はない。
「見て分かるとおり、あなたの偉業は新聞にも掲載され、広くにあなたの名が知れ渡っているのです。」
ハーデスが追い打ちをかけて訴える。
「他にもあなたの偉業を掲載している書物が多数存在しております。」
ネプチューンが病室に来て初めて口を開いた。そしてカバンの中からいくつかの冊子を取り出した。
「これは地元警察からの感謝状です。」
セレスも同じく初めて口を開き、ミツルに感謝状を渡す。それには「松山孝則殿」と大きく書かれており、ミツルは目を丸くして驚いた。またミツルはセレスの声を聞いて、初めてセレスが女性であることに気づいて驚いた。ショートカットでサングラスもかけていて、なにより変なサングラス3人組の中に女性がいるとは考えられなかったからだ。
自分の功績が載っている新聞、自分の名が賞賛されている感謝状、さまざまな資料がミツルの記憶を改変しようとする。信じがたい事実の羅列に頭が混乱している。
そしてハーデス達が来訪してから20分程経った頃、話に動きがあった。
「そうか、俺はゼウスの生まれ変わりだったんですね。」
ミツルはあっさりと自分の正体を受け入れてしまった。
「でも、何も思い出せません。この新聞に書いてある記事や冊子の出来事も・・・」
ミツルは悲しそうな顔で話す。それを聞いてハーデスが言う。
「心配はありません。自分の正体に気づいていただいただけでも本当によかった。記憶は少しずつ思い出していけばよいのです。」
3人はとても安らかな顔でミツルを見つめていた。
「ありがとうございます。俺、頑張って思い出しますから・・・!」
「私たちも全力でお手伝いさせていただきます!そこで、1つやっていただきたいことがあるのですが・・・」
そう言うと、ハーデスはボールペンとともに、ある紙を1枚ミツルに差し出した。
「その一番下にご自身の名前を書いていただきたいのです。」
「・・・?はい、わかりました。」
いきなり名前を書けと言われて驚いたが、とくに疑うことなく名前を書いた。
「はい、書きました。ところでこの紙・・・『部活動申請書』って書いてあるんですけ・・・」
「いまは気になさる必要はございません。」
ハーデスはミツルの発言に被せ気味に答え、その紙を受け取った。
「ありがとうございます。それでは私たちはこれで失礼いたしま」
それは刹那の出来事であった。ハーデスが受け取ったはずの紙が消滅してしまっていたのだ。否、消滅したのではない、奪われたのだ。いつの間にか3人の後ろに立っている人間によって。
「げぇっ!!ね、姉さん!!!」
ハーデスは取り乱して叫んだ。
「やぁかましい、この愚弟が!」
『姉さん』はそう言って、ハーデスに静かに手刀を食らわせる。ハーデスは鈍い声を出して床に倒れた。
「恐ろしく速い手刀・・・!俺でなきゃ見逃してしま・・・」
「アンタも・・・!!!」
ネプチューンにも手刀。
「ひぃっ・・・!」
「・・・無抵抗の女性は、殴らない!早くここから去りなさい!」
「はっ!?なんと慈悲深い・・・!」
なんとか許されたセレスは床に伏す2人をひきずって病室を去っていった。一方その頃ミツルは、たった数秒で起こったよく分からない光景を目の前に、再び気絶していた。




