第63話 ユーフォリア・デイズ
「記憶を呼び覚ましに・・・、俺の?」
ミツルは混乱しながらも、“ハーデス”に質問をする。
「はい、そうです。本当に、覚えていないのですか?」
ハーデスはそう言って、サングラスを外し、素顔を晒した。が、ミツルは知らないと言わんばかりに首を傾げる。
「分かりました。それでは私が、あなたの正体について説明させていただきます。の前に、まずはこちらの紙をご覧下さい。」
ハーデスはミツルに1枚の紙を渡す。それには長々とした文章と申し訳程度の図が描かれていた。そしてハーデスはそれを読み上げる。
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時は1878年。イールス地方のレウデレナント諸島に、ひとりの青年がいた。名を“ミハエル”という。ミハエルは研究熱心で、いつも通っているアカデミーで寝る間も惜しんで研究に勤しんでいた。
そんなある日、アカデミーに新しい教授“フラン”がやって来た。天文学の専門家であるフランの講義は大人気で、たくさんの生徒から天才と慕われていた。ミハエルもその中の一人で、いつの間にか彼はフランの下で助手として研究をするようになっていった。
助手となってから3ヶ月ほど経った頃、フランはミハエルにある告白をする。
『君は、宇宙というものが2つ存在していることを知っているかい?“真の宇宙”と“虚の宇宙”。我々がいるのは後者。つまり虚構の宇宙に我々は住んでいるんだ。』
いつもは文献や実証に基づいて論理的な発言をしているフランが、何を意味の分からないことを言っているんだとミハエルは戸惑った。しかしフランは続ける。
『そこでだ、ミハエル君。私と協力して真の宇宙・真の世界へ行こうじゃないか。何もかも理想通りの世界。私はそこへ行くことを夢見ているのだよ!そのためには信頼できるパートナーが必要なのだ。それが君だ。』
・・・ミハエルは、失望した。あの尊敬していたフラン教授が、頭のおかしい妄想野郎だったと気づいたからだ。それを期に、ミハエルはフランから距離を置いた。
それから半年経ち、ミハエルは病気を患った。それも、当時では助からないと言われていた“D疾病”に。彼は死を悟り、青春時代を捧げた研究室で生涯を終えようと研究室の床に伏していた。苦しい辛い、そんな中で、自らの薄れていく意識を感じていた。やがて苦しさも辛さも感じられなくなり、だんだん呼吸もできなくなっていった。
そんな時、彼の目の前を目映い光が差した。すると、なんということか、苦しさも辛さも消えていき、身体の異常がなくなって、立ち上がれるくらいに回復した。目の前には、最近会っていなかったフランがいた。そして言った。
『体調はどうだいミハエル君。死の淵から戻った今の心境はいかがなものかな。』
ミハエルは状況を掴めきれないながらに、フランの言葉と、黄金に光るフランの右腕に衝撃を受けた。
『まさか、あなたが治してくれたんですか?』
『いかにも、今この右腕には“救済の力”が宿っている。これは真の宇宙から授かったものだよ。どうだい、これでも君は真の宇宙の存在を否定するかね?』
ミハエルの答えは『ノー』。フランの呼ぶ真の宇宙の存在を信じ、また希うようになった。そしてミハエルはフランのことを尊敬の意味を込めて“全能神”との呼び声高い“ゼウス”と讃えるようになった。
しかしゼウスは、すぐにミハエルの前から姿を消した。だが、ミハエルは真の宇宙とゼウスの帰還りを信じていた。そしてそのまま、ミハエルは80年にわたる生涯を終えた。
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ここで長々としたハーデスの語りが終わった。ハーデスは一息ついて、ミツルに言う。
「そして、我々の目の前にいるアナタこそが、そのフランもといゼウスの生まれ変わりなのです!」




