第54話 喪失尋問 上
ミツルが目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井があった。明るめというわけではないが暗めというわけでもない微妙な明るさの電球がいくつかついた天井。仰向けの体を起こすと、後頭部の痛みに気づいた。ミツルは思い出した。松山の家を訪問した帰り道に、何物かによって背後から殴られたのだ。それからの記憶は全くなく、このように現在に至っている。
周囲を見渡し、いま自分がいる空間がどこかの飲食店の一室であることを理解するのにそれほど時間はかからなかった。しかし飲食店にしては静かすぎる。まるで企業のお偉いさん方が会合に使うかのような場であるように思える。それにしても、一体誰がなんのためにここへ連れてきたのだろうか。そんな素朴な疑問についての考察をまとめる間もないうちに、その答えは明らかとなった。とある男の登場によって。
「おや、目が覚めましたか。星野さん。」
「お前は・・・!」
ミツルは驚きの声をあげる。なぜなら、彼の目の前に因縁の警察官・御子柴が立っていたからだ。
「いや失礼、間違えました。松山さん、ってお呼びすればよろしいんでしたっけ?」
「・・・!」
御子柴が核心に触れる発言をした。この男、とうとう気づきやがった。自分が松山の名と身分を騙っていたことを。ミツルは動揺を隠せず、思わず上唇を噛む。
「ん、どうしました?すごい汗ですが。体調でも悪いんですか?」
御子柴が笑いながら言う。その笑いの裏側に、何か恐ろしいものが隠されているのが直感でわかった。ミツルは汗を軽くぬぐった。
「・・・な、何を言っているのか全くわからないんだが。」
ミツルは動揺しながらもはぐらかした。そのミツルの返しに、御子柴は爆笑した。
「ッッハッハハハハハハハ!!!本当にアンタは動揺してるのが分かりやすいなァ。まさか今までの自分の言動に違和感ないとか思っちゃってんの?おめでたい奴だなぁぁぁぁハハハハハハハ!!!!」
御子柴の気持ち悪い笑いに、ミツルは言葉を無くした。ミツルは察した。この男は自分を逮捕する証拠を全て集め終え、何物にも代えられない自信に溢れかえっているのだろう、と。ミツルは絶望した。もう終わった、全て終わったのだと。いくら名前も身分も変えたとしても、その過去は変えることができないものであるのだと実感した。
「・・・まぁいい。今日は別に笑いにきたわけじゃない。アンタと話をしに来たんだ。」
御子柴はそう言うと、ポケットから取り出した1枚の写真をミツルの前に差し出した。ミツルはその写真を見て、「まさか・・・」という顔になった。それは、ミツルがクレイジーデッドに集団で暴行されている写真だった。忘れもしない、さらわれた麗華を助けに行って報復を受けたあの日の光景が、1枚の紙に写されていた。なぜこんな写真を持っているのかという疑問を御子柴にぶつける前に、御子柴が口を開く。
「単刀直入に言う。このボコられてる男はアンタか?」
御子柴は、写真の中のミツルを指さして問うた。ミツルは何も答えない。もはやミツルは御子柴の方を向くことすらできない。御子柴の顔を見るのが怖いのだ。彼の顔を見ると心を抉られるかのような気分になるのだ。
「オイオイ、黙秘権を行使してるつもりか?」
ヘラヘラしながら御子柴が言う。しかしミツルは何も答えない。
「なぁ、何か言ってくれないか?『はい、そうです』か『いいえ、違います』かくらい。」
御子柴の口調がだんだん荒くなってきている。しかしミツルは何も答えない。
「はぁ・・・」
御子柴は小さくため息をつくと、ミツルの顔面を思いっきり殴った。




