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ギルティ エリート  作者: 明日原 たくみ
Chapter4 ダークナイト・バンケット
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第50話 錯綜Daytime 下

「やべ、手ェ洗ってなかった・・・」



 ミツルは昼食を目の前にして、衛生的な倫理(モラル)に襲われた。別に外出をしていたわけではない。手の汚れるようなことをしていたわけではない。しかし、食事の前には手を洗わなければならないという人間界のモラルに従い、人はただ手を洗うのだ。4時間目が終わって昼休みを迎えた生徒たちは、別に「手を洗いなさい」とか言われずとも手を洗いに行くのだ。

 もちろんミツルもその例外ではないが故、面倒だが席を立ち、手洗い場へと向かう。




「あ、松山先生」


「んあ」



 ミツルは手洗い場に向かう途中、廊下で生徒会長・清波 麗華(せば れいか)に出会い、声をかけられた。



「・・・え~と、()()()ぶりですね・・・。お身体の方は大丈夫ですか?」



 ()()()というのはミツルがクレイジーデッドによって報復された日のことを指す。



「あ、うん。大丈夫だよ、ありがとう。ほんのちょっとだけ痛むけど、大したことはないよ。」


「そうですか。よかったです。・・・あの、松山先生。」



 安堵の表情から一転して、麗華は少し複雑な表情になった。照れくさそうな、申し訳なさそうな、なんとも意図を読み取れない表情だった。



「あの、その節は助けてくれて改めてありがとうございます。それでその後、家に呼んでおいて勝手に取り乱してしまって本当に申し訳ありません。お見送りもできずに・・・」



 なるほど、それは「感謝」と「謝罪」を含めた表情だったのかと、ミツルは勝手に納得する。



「いや、気にしないで。そもそも悪いのは俺なんだから・・・。謝るのはむしろ俺のほうだよ。本当に申し訳ない!」



 ミツルも謝罪とともに頭を下げた。事実、麗華がさらわれたのも、彼女が取り乱してしまったのもミツルが原因である。しかし、麗華も「はいそうですね」などと納得するわけもなく、「そんなことありません!」などと返す。互いに謝罪をしあうという、なんとも不毛な時間が繰り広げられる。そんな不毛な会話を、麗華が終わらせる。



「あの、それでなんですけど。・・・こ、今週の日曜日にでも、また家にお越しいただけませんか?改めておもてなしをしたいのですが・・・」



 恥ずかしさを必死にこらえた麗華の誘いの言葉は、残念なことにミツルの耳に届いていなかった。ミツルは青ざめた表情で、廊下の窓から校門に目を向けている。



「そんな・・・」



 ミツルの視界に、忘れもしない宿敵・御子柴(みこしば)の姿があったからだ。その御子柴が、もう1人の見知らぬ警察官とともに、校門を通り学校に入ってきているのだ。ミツルは戦慄した。こいつらは俺を犯人だと断定し、逮捕しに来たのだと。ミツルは咄嗟に、麗華に何も言い返すことなく走り出した。



「ま、松山先生!?」



 追うこともできず、麗華は遠くなるミツルの背中を何も言わず見送り、教室へと戻る。その道中、麗華は小さくつぶやく。



「やっぱり、図々しかったかな・・・?」



―――――



「星野ミツルなんて人間はいない・・・?」



 学校の玄関口のインターホンの前で、御子柴は眉をひそめる。



「いませんねぇ。そんな名前はこの学校関係者名簿にありません。」



 インターホンからやる気の無い警備員のような者の声が聞こえる。



「そんなはずはない、たしかに星野ミツルはこの学校に毎日出入りしているはずだ!学校関係者じゃないわけがないだろう!!」



 御子柴はインターホンに向かって必死に訴えかける。しかし、そこから返されるのは冷めたやる気の無い言葉だけ。



「いや、そんなこと言われてもいないもんはいないので。てか、おたくらなんでその、星野・・・ミツル?って奴が毎日出入りしてるって知ってるんですかね。」



 それに対し、ケイはふふん、と自信ありげに口を開く。



「そりゃあもちろん、このエリートスパイ警察官のケイさんが毎日尾行していたか・・・」


「バッ・・・!余計なことは言うな!」



 軽く暴走するケイに、御子柴が小さく怒鳴る。



「え~、スパイとかちょっと・・・。失礼ですが、アンタら本当に警察の方ですか?」



 インターホンから疑いの言葉が聞こえる。イライラしながらも、御子柴は抵抗する。



「何を言う、先ほど警察手帳を見せただろう。」


「いやぁ~最近のイタズラは手が込んでますからねぇ。イタズラで生計たてる動画投稿者とかもいる時代ですし。」


「イタズラなんかじゃない、これは捜査なんだ!・・・そうだ、じゃあこれ!この写真の人間に見覚えはないか!!??」



 そう言って御子柴はインターホンのカメラに“写真”を見せつける。しかし、集団で殴られているが故、ミツルの姿を確認し難いのと、インターホン越しの写真であるが故、画質的な問題でミツルと判別することができない。よって、警備員の返事は冷たく、



「いやいや、何の写真か全く分からないんですけども・・・。もういい加減にしてくれませんかね。そろそろ警察呼びますよ?」


「いや、俺ら警察なんスけどwww」



 ケイがヘラヘラ笑う。それがトドメとなり、インターホンの電源が切られた。



「あ~あ、切られちゃいましたね。それにしても星野ミツルがいないとは、どういうことなんでしょうね。マジ意味分かんねぇっすよ~。ま、一時撤退ッスね。」



 なんとも呑気でマイペースなケイは切り替えも早く、すぐさま帰ろうとする。



「・・・るな。」



 御子柴が小さく何かをつぶやいたが、聞き取れなかったので「なんて?」と聞き返す。




「ふざけるなよゴミ共が・・・よくも俺に恥をかかせやがって。絶対に許さん・・・邪魔する奴は“あの男”もろとも全員地獄に送ってやる・・・」




 そう言うと、御子柴は学校をあとにする。何も言い返せないケイは「あらら」という表情で一定の距離をとって御子柴についていく。



「ミコシーのスイッチ入っちゃったなぁ。星野ミツルくん、ご愁傷様です☆」




 いろいろなすれ違いが繰り広げられた昼休みは、まもなく終わりを迎える。松山に嫌われたかも、と嘆く麗華。恥をかかされミツルへの怒りに燃える御子柴。

 そしてこの2人の感情の渦中にいる当の本人は、教員用トイレで1人うずくまっていた。まもなく逮捕されるという無駄な心配を抱きながら。


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