第49話 錯綜Daytime 上
御子柴とケイがもめ始めてから20分が経過した。
「あああああこのくそボケコラァァァァァ!!!!さっさと行くぞアホが!!」
「あぁぁっ、わかりましたから襟を引っ張らないでくださいよ!」
やけになった御子柴はケイの襟元を強引に掴みながら、足早に部署を去った。
新人ながら年上という権力を振りかざす御子柴と、警察官歴は上だが年下という宿命に翻弄されるケイ。水上警察署の捜査官2人の、短い戦いの幕が切って落とされた。
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「・・・とりあえず、お前のまとめた調査結果はこれで合ってるか?」
「はい、合ってます。」
小道を歩きながら、“調査結果”の確認をする御子柴。顔に笑みを浮かべている。
「・・・よくやったぞケイ。まったく本当によくやったよ。これはとても強力な武器になる。」
「そうですかぁ?いや~そう言ってもらえると“尾行”した甲斐がありますよ~」
「今日うまく事が進んだら、叙々苑おごってやる。」
「マジすかミコシー!やったぁ石焼きビビンバだ石焼きビビンバ!!」
「ミコシーと呼ぶな。てかせっかく叙々苑行くんだから石焼きビビンバじゃなくて、肉で期待を膨らませろよ・・・」
だんだんと穏やかな会話になっていく。それはまるで真っ当な上司と部下の会話のように。
「しかも、証拠写真まで・・・」
御子柴はおもむろに写真を取り出す。それは星野ミツルがクレイジーデッドに集団で襲われている光景が収められた写真だった。
「・・・待ってろ、星野ミツル。」
小さく呟いた御子柴は、先ほどよりも足早に“村雨学院高校”への歩みを進める。
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「・・・あれ、松山先生。5限目は自習ですか?」
“松山先生のボード”を見ながら、荒川は尋ねた。
「えぇ。少し急用が入りまして。」
松山先生もといミツルは、机にある書類をまとめながら荒川に返した。
「急用ですか?なにかあったんですか?」
「なにかあったっていうか・・・」
ミツルはう~ん、と口を濁しながら、返事の言葉をひねり出す。
「“会うべき人”に会ってきます。」
ひねり出したわりには、なにいってんだこいつ、と言われんばかりの謎の返事をしてしまった。しかし咄嗟にしてはなかなか無難な回答だったと、ミツルは自分で勝手に解決した。
「なるほど、深いですね。さすがエリート国語教師。お気をつけて。」
ミツルの謎の返事もポジティブに捉えられる。なぜなら彼がエリートと称されているからだ。多少意味不明なことを言っても「エリート」の名の下に解決してしまうのだ。
ところでミツルの言う“会うべき人”というのは一体誰なのかは言うまでもない。なぜならばこれはミツルにとって以前から約束されていた展開であるからだ。
そう、その人物とは。ミツルが存命していられる所以といっても過言では無い人間。ミツルをエリートたらしめる存在。そして、これからのミツルの運命を左右させるキーパーソン、本物のエリート・松山孝則である。
彼のインフルエンザが治り、ミツルに家に来るよう先ほどLINEがあったのだ。そのLINEを確認してからというものの、ミツルの顔から笑みが絶えない。松山の復活、という謎の安心感がミツルに笑顔をもたらしているのだ。
時刻は昼を迎え、書類の整理を終えたミツルは昼食のコンビニ弁当に手を伸ばす。なんともゴキゲンな昼食を迎えようとしているミツルは、自分にとって脅威となる訪問者の接近など、微塵も眼中になかった。




