第45話 清波宅誤算
「ただいま~」
「えあっ!?あああおかえり『メイナ姉さん』!あれ!?今日はやるべき仕事がたくさんあるから遅くなるって言ってなかった!?」
「予定より早く仕事が片付いちゃってね。すぐに帰ってきちゃったの。」
「あぁ、そう・・・」
麗華が帰ってきたその若い女性とやりとりをする。「メイナ姉さん」と言っていたが、この女性は麗華の姉なのだろうか。とても穏やかで優しそうな表情が特徴の女性だ。
「ところで・・・こちらの方はお客様?」
『メイナ姉さん』が笑顔で問いかける。なぜ自分の家の玄関先にいるボロボロの男性をお客様だと思えるのだろうか?しかも、そんなニコニコしながら。
「いや、この人は私の学校の松山先生です!」
「・・・どうも、松山と申します。怪我をしてしまったので、少し立ち寄らせていただきました。」
まぁ、間違ったことは言っていない。事の流れの余計な部分を取り除き、それを非常にコンパクトにお伝えしただけだ。
「あらそうでしたか。初めまして、『清波 芽奈』と申します。麗華の姉で、公務員をしております。23歳です。」
あらあら。これはまぁなんともご丁寧な自己紹介をしていただいた。女性が年齢まで言うかなぁ。まぁ麗華と同じで真面目な人なのだろう。麗華よりも数段真面目に思えるが。
「ひどいお怪我ですね・・・。どうかゆっくりなさってください。あ、すぐにお茶を用意しますね!」
芽奈はミツルに、とても優しい笑顔でとても優しい言葉をかけると、英知と同様リビングへと入っていった。優しくて笑顔がすてきな女性とかもはや完璧ではないか。
そう考えると、こんな姉らを持つ英知がますます羨ましく思える。英知は自分のステータスを「姉」に振りすぎだ。
いや、そんなことよりも、あまりに当初と話が違いすぎる。
「家族、めっちゃ家にいるけど・・・」
「・・・すみません。まぁ芽奈姉さんなら、優しいし口も固いので、言っても大丈夫だと思います。」
「そ、そう・・・」
「と、とにかく早く入りましょう!」
解せぬ顔をしながら、ミツルは麗華の肩を借りて、英知と芽奈の待つリビングに入った。
―――――
「・・・よし、これで大丈夫ですかね?」
「うん、ありがとう。」
麗華たち3人の手によって、一通りの応急処置が終わった。
「お疲れ様です松山先生。どうぞ、こちらのマドレーヌお召し上がり下さい。」
そう言って芽奈は皿にたくさん盛られた、見るからに美味しそうなマドレーヌを差し出した。しかもその皿は、ザキヤマ春のパン祭りにおいてシールを何枚か集めて入手できる微妙に使えそうで使えないフォルムをした皿ではなく、王家御用達のウェッジウッドの高級皿だ。こういう何気ないところで金持ち感を出してくるあたり流石だと思える。
「すみません、いただきます。」
遠慮無く上流階級感が漂う菓子を口にする。
「お、おいしい!」
思わず口に出してしまう。サクッとした食感。口の中をしっとりと包むバターの風味。ほのかに感じる蜂蜜の香り。そしてお茶として一緒に出された、世界の三大銘茶の中の1つ「ダージリンティー」との相性が素晴らしい。
「喜んでもらえてよかったです。私が作った昨日の余りで申し訳ないのですけれど。」
平日に余るほどのマドレーヌを作る芽奈姉さんスペック髙すぎやしませんかね。全くもって羨ましい。芽奈姉さん1人分けてくれ。
「・・・で、松山先生。結局その怪我どうしたの?」
マドレーヌのおいしさを存分に噛みしめる間もなく、英知が問いただす。もうちょっとしたら言うつもりだったのだが、問われてしまったらすぐ答えるしかない。少し躊躇ったがとりあえず、一切の嘘偽りなく、真実を話すことにした。
「実は・・・」
ミツルが真実の説明を始めようとした直後、リビングの扉が勢いよく開いた。
「・・・うぇっ!!?」
ミツルは驚き、扉の方を見る。するとそこには赤い顔をした女性が立っていた。そして彼女は叫んだ。
「お前ら全員逮捕じゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」




