第43話 いざユートピア
「先生、大丈夫なんですか・・・?病院に行かなくて。」
「あぁ、大した傷じゃないさ。ほら、もうこんなに歩ける。」
そう言ってミツルは倉庫の出口まで歩く。しかし、
「うわぁ」
フラッとよろけて、地面に倒れてしまった。
「ほら言わんこっちゃない。」
麗華が冷静につっこむ。重傷ではないにしろ、上手く歩けないのが現状だ。なんとも情けない。
「・・・ほら、つかまってください。」
麗華が肩を貸してくれる体勢になった。男性教師が女子生徒に肩を貸してもらうなど、なんとも情けないが、今はそれに甘えることにした。
「さぁ病院行きますよ、病院。」
「いや、いいよ。大丈夫だよ。」
「まともに歩けない人が大丈夫なわけないじゃないですか。今度こそ本当に死んでしまいますよ。」
「いや、本当に大丈夫だから!唾つければ治るから!」
「・・・なんでそこまで病院を拒むんですか?」
「それは・・・」
自分(松山孝則)の健康保険証がないから、だなんて口が裂けても言えない。
「先生・・・もしかして・・・?」
麗華が何かに気づいたかのような顔をした。まさか、感づかれたか?
「病院が怖いんですか・・・?」
バカだった。この子はなんともかわいいバカだった。
「子供じゃないんだから・・・。そういうわけじゃないんだけど、別に病院に行くまでもないかなっていうか・・・」
「・・・ていうか。」
麗華がまた何かに気づいた。
「この近辺に病院ないんでした。」
「え、最寄りの病院でもどれくらい離れてるの?」
「5km」
なんだこの状態異常耐性がなさ過ぎる地域は。最寄りで5kmとか地方か。まちづくり下手くそか。
それにしても、女子高生が夜に男性教員1人に肩を貸しながら5km歩けるだろうか。いやできないねぇ!やっぱり病院は諦めるしかないな。
「あ、でもタクシーを使えばなんとか!」
諦めない。麗華は決して諦めない。意地でも病院に連れて行く気だろう。まぁ、それが普通なのだけれど。
「俺、いま300円くらいしか持ってないよ・・・」
「じゃあ私が出しますから。えーと確か7000円くらい入ってたはず・・・」
まずいなぁ、金まで払ってもらってはなんだか面子もクソもないじゃないか。麗華はおもむろに自分の財布の中身を確認する。しかし、麗華の表情は引きつった。
「34円・・・」
麗華の口から出てきた衝撃の残額。ミツルの所持金より数倍も少ない。しかも2桁!ホワイトサンダー1個しか買えないよこの金額じゃあ。女子高生が持ってる金額じゃないよこれ。逆にどうしたらそれだけ残るんだよ。
「・・・334円で病院まで行けるでしょうか?」
「行けないよ。」
麗華の無垢な質問に、残酷な回答をしてしまう。仕方ない行けるわけがないのだから仕方ない。
「・・・仕方ないですね。」
そうそう、仕方ない仕方ない。そうと決まれば保健室に連れて行ってもらうより他に手は無い。さぁ行くぞ、いざモデルミの待つ保健室へ。
「私の家、来ます・・・?」
そうだそうだ、それでいいんだ。さぁ行くぞ、いざモデルミの待つ保健し・・・ん?
「・・・今なんて?」
思わず聞き返す。なんだか「私の家、来ます・・・?」って聞こえた気がしたからだ。おかしいな。耳までやられたか。俺の耳の部分についてるのは歪な形のドアノブだったりする?
「・・・いや、だから。その・・・あの・・・」
麗華の口が重くなる。もしかして本当に「私の家、来ます・・・?」って言ったのか・・・?
「・・・私の家に来ますか!?お、応急処置しないとだし・・・.今日は家に誰もいないと思うし・・・」
言ってた。この麗華言ってた。私の家来ますか言うてたよ私の家来ますかって。俺の耳はやられてない!いたって普通、平常運転。ドアノブじゃなかった!言質とったからね。
しかし、この誘いにすぐにつられる訳にはいかない。あくまで教師らしい対応をとらなければ。
「・・・なんでそうなるの。」
「えっ!?その、なんていうか、あの、えーと・・・」
麗華がかつてないほど戸惑っている。じわじわと顔が赤くなっていく麗華。色々な感情が渦巻く中、麗華は叫んだ。
「ええい!私の家に来るんですか来ないんですか!!??はやく答えてください!!!!」
何故か急に怒鳴られてしまった。呆気にとられたミツルは小さくこう答えた。
「・・・あ、はい。行きます。」
本当はとても行きたいはずなのに、立場的に、状況的に素直に喜べないミツルであった。
・・・まぁ何はともあれ。さぁ行くぞ、いざ麗華の家へ!!




