第39話 いたって簡単な質問
「そうだ・・・俺が松山だ・・・」
ミツルは呼吸を荒げながらそう答える。もはや声を出すにも痛みが生じることに、薄々感じ始める。
「そうか。それはよかった。私の名は黒沢。老けていると言われるが、こう見えてまだ22歳だ。そして、四年前にクレイジーデッドの第六代リーダーをしていた者だ。」
「!」
この集団がクレイジーデッドであることをミツルは把握した。
そして、麗華がさらわれた理由も理解した。それはミツルを呼び出すため。では、なぜ呼び出したのか。それはミツルに復讐をするためだ。先日、チームの仲間が痛めつけられた落とし前をつけるためだ。
「そこで君に一つだけ簡単な質問をする。全く難しくはない。いたって簡単な質問だよ。『はい』か『いいえ』で答えられる簡単な質問だ。」
黒沢は淡々と続ける。
「昨日、クレイジーデッドの連中に重傷を与えたのはお前か?」
「あ・・・」
たしかにとても簡単な質問だ。『はい』か『いいえ』の二択で答えられるとても簡単な質問ではあるが、この二択のどちらを選ぶかに、自分の命が懸かっている気がする。『はい』と答えれば問答無用で殺されるだろう。まだ松山先生であるという確信を持てていない人間に対して鉄球を投げつけてきた連中だ。本人と分かった上で、更にそいつが自分の仲間を痛めつけた人間だと分かったら、十中八九報復をしてくるに違いない。
ならば『いいえ』と答えるか。いやしかし、こいつが真実を知っている上でこの質問を突きつけてきているとしたら、嘘を言った時点で殺されるかもしれない。でも、真実を知らない状況で質問をしてきているのなら、人違いということでお咎め無しになるかもしれない。「はい」と正直に言って殺されるか、「いいえ」と嘘をついてお咎め無しという微かな可能性に懸けるのか。
だが、ミツルは冷静に考える。同じ「殺される」にしても正直を貫いて殺された方が、まだ惨めではない。嘘をついた挙句殺されるというのはどれほど惨めだろうかと考えた。何より麗華に惨めな所を見せたくないと思ったのだ。この極限の状況で嘘をつくことに全くの意味がないことに気がついたミツルは覚悟を決めた。
「そうだ。俺がやった・・・」
ミツルは弱々しく正直にそう答えた。
「てめぇ・・・ぶっ殺してやる!」
軍勢の中の一人がそう叫ぶと、それをきっかけに血気盛んな男達が怒りに満ちた表情で、待ちくたびれたかのように勢いよくミツルに向かってきた。ミツルはもう、考えるのをやめた。抗うことも眼中にはなかった。少しも動かず、そこに倒れ込んだままだった。
「やめろ!」
黒沢が大声で叫ぶ。その声によって、向かってくる男達の足がピタッと止まった。黒沢は再びミツルに話しかける。
「松山先生よ、お前にもう一つだけ質問をしたい。次は『はい』か『いいえ』の2択で答えられる問いでは無い。お前自身の言葉で答えてほしい。」
黒沢はどこか優しい口調になったように思われた。そして質問を投げかけた。
「なぜお前は、私の後輩を痛めつけたのだ。」
先輩として、傷つけられた後輩の借りを返そうとする黒沢。しかし彼はどこか穏やかで、彼からは全く殺意を感じない。不思議な感覚だった。強い恨みを抱えているであろうに、殺意を全く感じないのだ。そんな彼に対して、嘘を告げるかどうか迷うこともなく、一切の偽りない真実を告げることにした。




