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ギルティ エリート  作者: 明日原 たくみ
Chapter3 人殺しなんて、死ねばいい。
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第38話 死を覚悟するほどの恐怖

『松山へ。生徒会長様の無事を願うならば、1人で第2倉庫へ来い。』



 日の沈みゆく放課後、ミツルは息を切らして走る。


 昨日は弟の英知がクレイジーデッドにさらわれ、今日は姉の麗華が何者かにさらわれた。この姉弟の運が絶望的に悪いのか、それとも2人に関わるミツルが悪いのかは分からない。だがそんなことを考えている余裕はない。なぜならばこれが昨日より一段と危ない状況である気がしているからだ。


 昨日は音楽室に呼ばれた。しかし今回は学校の外。学校から1kmほど離れた第2倉庫に呼ばれているのだ。学校外であるがゆえ、何をされるか分かったものじゃない。もしかしたら恐ろしい組織が待ち構えているのかもしれない。もしかしたら彼女自身がとても恐ろしい目に遭わされているのかもしれない。そんな嫌な予感が脳裏によぎるたび、なんだか強い罪悪感に襲われる。


 しかし今のミツルにはとにかく走ることしかできない。誰が悪いのか、どうしてこうなったかだなんて後で考えればいい。もう「究極の弁解」の内容なんて忘却の彼方へと去って行った。今の彼にはもう、昨日犯した自分の罪から免れようだなんて考えは存在していない。ただ麗華を助けること、それだけしか頭になかった。


 その姿はまるで、本物の教師であるかのように見えた。



―――――



 学校を出て10分、ミツルは第2倉庫に到着した。見る限り倉庫の周りには誰もいない。要するに中にいるのだろう。入れそうな扉を発見し、有無を言わさず勢いよく突入しようとする。

 しかし、必死に走っていた時には感じなかった恐怖を今更になって感じた。なんだかとてつもなく邪悪な連中が、自分の到着を待っている気がしたのだ。身体が震える。武者震いではない。恐怖。今までに感じたことのないような、絶望的な恐怖によって震えているのだ。扉を開けたい。開けたいとは心に思っていても、手が動かない。身体が言うことを聞いてくれない。まるで何者かに押さえつけられているかのように。



 動かない身体に抗っていると、ふと頭に麗華の顔が浮かんできた。昼休みに生徒会室で見た、可憐で誠実で、だがどこか寂しそうだった麗華の顔だ。そんな彼女が今、何者かによって捕らわれているのだ。彼女も自分と同じように震え、怯えているに違いない。

 

 そう考えると、わなわなと震えている自分が情けなく思えてきた。怯える女子生徒の前で教師が震えていたら、一体誰が彼女を助けるというのか。誰もいない。誰も彼女を助けることはできない。ならば、恐怖を打ち払い、自分がこの扉を開けるほかに彼女を助ける方法はないのだ。責任感、教師としての義務感、人としての義理人情。様々な感情の渦巻く中、彼女を助けるというただ1つの信念が、ミツルの動かざる身体を動かした。


 ようやく動いた彼の腕は、目の前にそびえる重く閉ざされた扉を力強く開いた。



 倉庫の中は非常に暗く、目の前が全く見えない。言うなれば闇。果てしない闇が目の前に広がっている。本当に人がいるのだろうか。倉庫を間違えたのだろうか。

 

 そんな不安に襲われていると、急に目の前が明るくなった。倉庫内の電気が点いたのだ。急に明るくなったので、眩しさで目を閉じる。明るさに慣れてきたところで目を開けると、そこには恐ろしい目つきをした男達が大勢いた。その数はざっと30人。彼らは皆、殺気立っている。今にもミツルに襲いかかりそうなくらいに。その男達の中心に、囚われの麗華がいた。昨日の英知同様、身動きの取れないようにされていた。彼女は今にも泣き出しそうな、威厳ある生徒会長らしさを微塵も感じさせない表情をしていた。それを見た瞬間、先ほどの恐怖心とは裏腹に、ミツルの中に凄まじい怒りの感情を生み出した。



「貴様らァァァァァァァァァァァ!!!!」



 ミツルは勢いよく、その軍勢に向かって走り出した。武器も持たず、これといった防具も身につけず、まさに裸一貫で立ち向かう。何も考えず、ただ目の前の軍勢を蹴散らすために・・・



「!?」



 横から何かがこちらに飛んできていることに気づいたときにはもう遅かった。

“何か”が思い切りミツルの右腹部に直撃した。鈍い音とともにミツルは血を吐き、倒れ込んだ。



「ぐああああああああああっっっっっ」


「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっっ」



 大きな悲鳴をあげるミツルと麗華。その轟音が倉庫内に響き渡る。

 ミツルは右腹部をおさえる。今までに味わったことの無い激痛が襲いかかってくる。言葉では言い表せないような激痛。一体何が直撃したのか。それはずっしりとした重量感を持つ黒い鉄球だった。これがもし頭に当たっていたら今頃・・・。ここまでするのか、こいつらは。



 そんな床に倒れ込むミツルに向かって、軍勢の中の1人の男が歩み寄る。コツコツという靴音がミツルの恐怖心を増強する。多すぎる敵、鉄球という洗礼、迫り来る足音。ミツルは死を覚悟した。

 やがて男は歩みを止め、ミツルの前に立ちすくむ。しかし、とくに危害を加える素振りも見せず、ミツルに語りかけた。



「お前が・・・松山か・・・」

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