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ギルティ エリート  作者: 明日原 たくみ
Chapter3 人殺しなんて、死ねばいい。
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第36話 真相解明ヴァルキュリア

「あなたがクレイジーデッドに重傷を負わせたのでは無いですか?」

「わ、私が彼らを・・・?そ、そんなわけないじゃないですか。」



 麗華の問いに、ミツルは言葉を濁す。図星を言われてわざとらしく動揺しているように思われるが、本当に彼は自身がクレイジーデッドに重傷を負わせたことを覚えていない。だから、麗華の問いを、本心から否定しているのだ。



「それに、何を根拠にそんなことを・・・」

「根拠、ですか。では少し、私の考察にお付き合いいただけますか?」



 ミツルは小さな声で返事をする。もしかしたら麗華の言っている「疑惑」は実は本当なのかもしれない。失われた記憶の中で、本当にクレイジーデッドに恐ろしい暴行を加えていたのかもしれない。自分に対する「疑惑」が、彼女の持つ考察という武器を用いて立証されてしまうかもしれない。様々な不信感がミツルを追い詰めていく。

 そんな彼に待ったをかけることなく、彼女は考察を語り始める。



「まず昨日の放課後、クレイジーデッドが新しいリーダーを決めるために殴り合いを始めた。そしてその判定をさせるために、私の弟が巻き込まれた。ここまでは弟の証言ですね。まぁ、それが100%真実であるかは確信しかねますが、とりあえず「真実」であると考えて話を進めます。」



 本格的な考察になりそうだと、ミツルはだんだんと不安になっていく。記憶がないというのが、どれほど恐ろしいか。見えない疑惑に追い詰められて、その恐ろしさを改めて実感する。



「殴り合いが続く中、あなたが音楽室にやってきた。殴り合いの音を聞いて駆けつけてきたのか、偶然通りかかったのかは、今は問いません。とりあえずあなたが音楽室にやってきた。そして身を挺して彼らの殴り合いを止めた。そのおかげで1人の死者を出すことなく、騒動を鎮めることができた・・・。というのが、昨日の件の全貌ですね。」

「・・・そうですね。」



 控えめな肯定の言葉を発するのにも、いちいち恐怖を感じる。自分の知らないことを肯定すると、思わず様々な矛盾を生み出してしまうかもしれないからだ。とりあえず、麗華の言っていることが全て真実であると仮定して、頭を整理させる。



「・・・これらの全貌を整理してみると、なんとも腑に落ちない点が色々あるのですよ。」



 麗華の目つきが変わる。真剣な凜々しい目つきから、人を徹底的に疑うような目つきへと変わった。弟の英知に疑われたときとは比べものにならないほどの焦りを感じている。昨日は弟から疑われ、今日は姉から疑われている。清波姉弟の感の鋭さは異常であると確信した。



「まず、あんな凶暴な集団の殴り合いを止めたのに関わらず、あなたにはほとんど怪我がないことです。」

「あ・・・」



 ミツルは改めて考えた。殴り合いを止めたのに怪我がほとんどないのは確かにおかしい。クレイジーデッドは重傷を負ったと言われているのに、ミツルの怪我は重傷どころか軽傷にすら達していない。



「あなたが元プロレスラーであったりするならば、別に違和感はおぼえません。でもあなたは中肉中背のただの教師。そんな人間がほぼ無傷で不良集団の殴り合いの仲裁など、出来るとは到底思えません。一応聞いて起きたいのですが、以前にプロレスラーなどをやっていたことはありますか?」

「・・・いえ、やっていないです。」

「そうですよね。ではやはり、あなたがほぼ無傷の状態で今ここにいられるとは思えない。」



 少しも無駄のない麗華の考察に、ミツルは震える。この学校のバカに染まっていない貴重な人材であると関心するが、考察はまだ終わらない。



「そして、唯一と言っていいあなたの負傷。あなたの左手です。」



 そう言われてミツルは包帯の巻かれている自分の左手に目を向ける。左手の甲を包んでいる包帯に、血が滲んでいる。

 たしかに、左手だけに血が滲むほどの怪我をするのはおかしい。なぜそこだけ大きな怪我をしているのか。なぜ他の怪我はほとんどないのか。気になってはいたが、あまり気にしていなかった。しかし、麗華の鋭い考察を受けて、この不自然な負傷にも意味深な何かが隠されているのではないかと一気に不安になってしまう。


 そんな不安はお構いなしに、長きにわたる考察の末、麗華はいよいよ事の核心に触れる。



「これらのことから、私は1つの仮説を立てました。あなたはクレイジーデッドに、“一方的な暴行”を加えたのではありませんか?」

「!!!!!」



 重傷を負うクレイジーデッド。ほとんどないミツルの負傷。血の滲む左手。一方的な暴行。これらの要因が、見えない事象に極度に追い詰められたミツルの中に爆発的な衝撃を与えた。その衝撃が、彼の中に眠る昨日の惨劇の記憶を、呼び覚ました。


 そうだ、思い出した。生徒・教職員たちが信じている松山先生の英雄譚は全くの誤りだ。真実は麗華の言う通り。俺はクレイジーデッドを一方的に殴り、蹴り続けた。瀕死状態の彼らを加減することなく傷め続けたのだ。そうなったきっかけはどう考えてもクレイジーデッドの理不尽な死刑宣告。そして、「禁忌タブーに触れてしまったこと」。


 とはいえ、俺のやったことは正当防衛を逸脱した過剰防衛だ。この真実が知れ渡れば、不利を被るのは明らかに俺だ。今はなんとかして麗華からの疑惑を払拭するしかない。



「いくら相手が不良集団だからといって、私が一方的に暴力を振るうわけないじゃないか!」



 記憶を取り戻したミツルは、重く閉ざしていた口を久しぶりに開き、先ほどとは違う堂々とした口調で弁解を始めた。



「本当に私は殴り合いをしていた彼らの仲裁をしただけです!それにこの左手の怪我は・・・」



 かつてないほどの熱意を持って麗華に弁解を続けるミツル。しかし、彼の必死の弁解は虚しくも中断を強いられてしまうことになる。


 そう、昼休みが残り5分で終わることを告げる「予鈴」が鳴ったのだ。昼休みが終われば麗華もミツルも授業。つまり、タイムリミットが来てしまったのだ。弁解を終えることなく・・・



「・・・時間切れですね。では、お話の続きは放課後、またここでしましょう。」



 そう言って麗華は椅子から立ち上がり、生徒会室を後にしようとする。すると彼女は扉の前で立ち止まり、こちらを振り向いた。そしてこう言った。



「真実はどうあれ、弟を助けてくださったのは本当に感謝しています。でも、もしあなたがあの連中に一方的な暴行を加えていたのであれば・・・、乱暴なことをしていたのであれば・・・、私はあなたを許さない。私は乱暴なことが大嫌いだから・・・」



 力強く、また弱々しい言葉を残して彼女は去って行った。


 弁解を最後までできなかったミツルは、授業のため教室へと移動する。決戦は放課後へと持ち越された。つまり放課後まで弁解内容を考えることができるということを指す。これはピンチではない、チャンスだ。時間をかけ、しっかりとした理論のある弁解をすることができるのだ。なんとしても、麗華の疑惑を払拭させてやる。

 そんなことを意気込みながら、力強い足取りで廊下を歩く。



 「真実に近づく麗華」と「真実を消そうとするミツル」。「2人だけの密談・昼休みの部」は、こうして幕を閉じたのであった。



 しかし2人は気づいていなかった。この密談を聞いていた者が、1人いたことを。


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