第35話 脅威なる羞恥
「わたしが・・・A-・・・ですって・・・?」
麗華は下を向いたまま、震えた声を発した。まるで本当に自分がCの胸囲に達しているとでも確信しているかのような感じがした。
「ふっ・・・ふふふふ・・・あはははははははははは!!!」
そして唐突に高笑いを始めた。どうやら彼女のスイッチを入れてしまったようだ。そう、「逆鱗」という名の「スイッチ」を。まずい、こうなってしまっては何をされるか分からない。
逆鱗に触れてしまったら殺されるというお話が韓非子にあったように、本当に殺されてしまうかもしれない。しかし、スイッチが入ってしまった人間を元に戻す方法を1つだけ知っている。そう、「なだめる」ことだ。
「あ~・・・、でも、貧乳ってのも1つのステータスなんじゃないかな。」
ミツルは、彼の持つ渾身の「フォロー力」で麗華をフォローした。高笑いが止む。
「別にバストなんて関係ない。大事なのはそんなものじゃあないはずだ。」
ミツルは熱く語る。そして彼は、彼史上最大級の名言を放つ・・・
「大事なのはバストなんかじゃない、自分の『個性』を好きになることだ!!」
「はっ・・・!」
その刹那、麗華は理解した。最も恥ずべきことは「自分が貧乳であること」ではなく、「そんな自分を恥じること」であったのだと。なぜもっと早く気づけなかったのだろう。なぜこんなコンプレックスによる悩みを長々と引っ張ってきてしまったのだろう。私はどれほど莫迦だったのだろうか。幾多の走馬燈が彼女の中を駆け巡る。
「・・・そうですよね。バストが大きい小さいなんて、関係ないんですよね。」
「あぁそうさ。それも君の個性なんだ。なにも気にすることは無い。」
なんだかいい話をしている感じがするが、この2人はバストの話をしているだけだと考えると、だんだんしょうもない会話に聞こえてくる。
時は昼休み。教師と生徒会長の爽やかな笑い声が、生徒会室に響いていた・・・。
「・・・というわけで、本題に入らせていただきます。」
麗華の話題転換によって、良い感じの雰囲気が急にログアウトした。ミツルはてっきりこれで帰れると思っていたのだが、よくよく考えるとそんなわけが無い。わざわざバストの話をするために教師を生徒会室に呼ぶわけが無いのだ。それではただの淫乱痴女というやつだ。
「先日の件なのですが・・・」
そう聞いて「先日の件」が「クレイジーデッド壊滅云々」のことを指しているのであると、ミツルでも安易に想像ができた。
「まずは・・・先日は弟を助けていただき、ありがとうございました。」
麗華はそう言って、ミツルに対して深々と頭を下げる。ミツルにはその時の記憶が無いので、本当は自分はそんなことをしていないことに、気づくことができないのだ。真偽は不明だが、今はその礼を素直に受け取ることにしておく。
「いえ、そんな。当然のことをしたまでです。」
謙遜。あくまで謙遜気味にだ。堂々と胸を張ってはいけない。身に覚えの無い礼に偉そうにするのは、なんだか気持ちが悪いし、あまりメリットがあるとも思えない。むしろデメリットを孕んでいるといえる。
「・・・そこで、私はあなたに1つだけ質問がしたいのです。お気を悪くなさらないで聞いていただいたいのですが・・・」
麗華が改まって言う。この言葉を聞いて、ミツルは嫌な予感に襲われた。なんだか自分がとてつもなく非道い目に遭うような恐ろしい感覚をおぼえたのだ。根拠は全くない。しかし、その恐ろしい感覚はミツルを追い詰めるかのように襲いかかってくる。なんとかその感覚を振り切り、息をのんで麗華の質問に備える。
少し間を開け、麗華が口を開く。
「あなたがクレイジーデッドに重傷を負わせたのでは無いですか?」




