第31話 惨劇のリズム
「てめぇ・・・ふざけやがって!!!」
リーダーの仇と言わんばかりにメンバー達は怯えながらもミツルに襲いかかる。
「あ?」
ミツルやる気のない声を発した。しかし、そのやる気の無い声とは裏腹に、向かって来るメンバー達の鳩尾に重く鋭い拳と蹴りを入れる。
「うぉぇっ!!!」
メンバー達は腹を押さえ、床に倒れ込む。意識を失っている者もいる。
「ふざけやがって・・・?ふざけてんのはどっちだ・・・?まるでその辺の道を歩いてるみたいにトロトロと呑気にバカみてぇに襲いかかってくるてめぇらのほうがふざけてるよなぁ。なめてんのか人を。いいか、こうやるんだよ・・・こう!!!」
ミツルはそう言い放つと、倒れ込んでいるメンバー達を容赦なく蹴り始めた。
「オラオラァ!ほ~らさっさと起き上がらんかい!!死ぬぞ死ぬぞぉ!?アハハハハハハハハハハ!!!!」
笑っている。倒れている人間を容赦なく蹴りつけながら、ミツルは笑っている。狂気の沙汰を超越した狂気を感じる。それはまるで、頭のネジを数本失ったかのように。
「や、やめろ・・・やめてくれぇ・・・」
メンバーが弱く訴える。大分弱っているようだ。下手したら本当に死んでしまうかもしれない。しかし、
「あああぁぁぁぁぁ!!?なに言ってんだお前ぇぇ!!」
ミツルは声を荒げながら先ほどよりも強く蹴りを入れた。
「ううっ・・・!」
「お前ら寝ぼけてんのか・・・?他人の人生壊そうとしてんだろ・・・?・・・じゃあ自分の人生も壊される覚悟も当然できてるんだよなぁ!!!!!」
そう叫ぶと、ミツルはここで蹴りを止めた。そして最初に顔面を殴られ、今もなお床にへばりついているリーダーのもとへ歩を進める。そしてリーダーの髪を乱暴につかみ、そして無理矢理顔を上げさせた。
「お前・・・たしかさっき言ったよなぁ?『気にいらねぇ奴には何をしてもいい』ってよぉ・・・。じゃあこれから、この俺が気に入らない奴であるお前に何をしても・・・いいってことだよなぁ・・・?」
ゆっくり低い声で言いながら、不敵な笑みを浮かべる。そして左腕を大きく振りかぶり、思い切り顔面を殴る。
「ぐぉぇぇっっっ!!!!」
リーダーは口から血を吐き出し、仰向けになって倒れる。リーダーは意識朦朧の中、自分の今の状態が危ないことに気づく。そう、仰向けになっていることだ。
「おぅおぅ、やっと腹を見せてくれたなぁ。ごめんなぁリーダー。お前ず~~っと伏せてたから相手してあげられなくてよぉ。さぁ、簡単に死なないでくれよ・・・」
ミツルはリーダーの鳩尾を渾身の力で蹴りつける。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
リーダーの悲鳴が響く。残酷なまでに悲劇的な音色を、音楽室は静かに奏でさせる。
既に鼻と歯が折れている状態の人間の鳩尾を蹴る。今のミツルには「やっていいこと」と「いけないこと」の境界など存在しない。人としての禁忌を犯し、もはや「邪悪」の領域へ達してしまっている。
「っはははは!!良い声で鳴くじゃねぇか!!!もっと聞かせてくれよオイ!!!!!」
一向に蹴るのをやめないミツル。返り血を浴びながら不気味な笑みを浮かべている。
「・・・ん?」
ミツルは突如蹴るのをやめた。そして目を細めて何かを見つめている。
「が・・・あっ・・・はぁ・・・ぁぁぁぁ・・・」
蹴りを止められて呼吸を整えるリーダー。既に瀕死の状態で、虫の息だ。止められた暴力に、リーダーはかつてないほどの安堵に包まれた。しかし、そんな時間もつかの間・・・
「な・・・なに・・・を・・・・・・」
リーダーの霞む視界に写ったのは、鉄パイプを持ったミツルの姿だった。
「いやぁ~、まさか音楽室に鉄パイプがあるなんてなぁ~?ま・さ・か、お前らの鉄パイプ~?」
鉄パイプを振り回しながら、リーダーに問いかけるが返事はない。
「まぁどっちでもいいやぁ。使える物は使わないと勿体ないからなぁ!さぁ第2ラウンドと行こうかぁ!!!」
ミツルが大きく鉄パイプを振り上げる。リーダーは悟った。”自分は死ぬのだな”と。振り上げられてから振り下ろされるまでの刹那、リーダーはこれまでのことを振り返っていた。
人を何人も傷つけ、自分の好きなように生きてきた。その自分勝手な行いの果てがこれか。そうか・・・バチが当たったのだ。これはこれまでの悪行の積み重ねが招いた事態なのだ。自分が悪いのだ・・・.自分が。もう助けてくれる人間など誰もいない。全ての人間に見捨てられたリーダーであるが、ふと最後まで彼のことを見捨てずに更正することを望んでいた存在のことを思い出した。リーダーは自らの死を前にして、無意識に、かつ無力な小さい声でつぶやいた。
「・・・ごめん、母さん・・・・・・・。」
「!!?」
ミツルの振り下ろした鉄パイプはリーダーではなく、床に直撃した。
「・・・俺は、俺は・・・な・・・にを・・・」
ミツルは膝から崩れ落ち、そのまま気を失った。
「・・・・・・」
その様子を確認すると、安堵の感情を抱く間もなく、リーダーも気を失った。
先ほどまで響いてた残虐なエコーが突然途切れ、何事もなかったかのように静寂が続いている。全てを浄化するような安らかなる静寂である。かくして、不毛なる惨劇のリズムは終演を迎えた。おぞましいほどの血を残して。




