第23話 君は黄昏の中に
時は昼休み。生徒達にとっては至福の時間。勉強という苦痛から逃れ、自由を実感する時間。そんな絶対不可侵のひとときに1人の教師が水を差す。2年4組の教室に、小さな紙を持ったミツルが現れたのだ。
「はいみんなごめんね昼休み中に。今からみんなにこの紙を配る。終礼までにこの紙に、君たち1人1人が好きなことを書いて提出してもらいたい。書くことはスポーツ・漫画・アニメ、なんでもいいぞ。今教室にいない生徒にも伝えてやってくれ。それじゃあよろしくな。」
言うだけ言って、咄嗟に教室を出ていった。その間20秒。生徒達は状況を整理できず、教室には沈黙が続いた。
ミツルは考えた。「楽しませる授業」をするためには生徒を知る必要があると。それならば、まずは生徒の好きなものを知ろうと考えた。だから紙に好きなものを書かせた。それが1番楽…効率的であることを思いついたのである。
なんとも古典的であるが、画期的であるとミツルは自負している。いくらバカでも自分の好きなものを紙に書くことくらいはできるだろう。そんな舐めきった気持ちでいると、あっという間に終礼の時間となった。
「はい、じゃあみなさんさようなら。」
ミツルは淡々とした終礼を終えると、生徒から回収した紙を持って、職員室へ戻る。そして期待と不安が入り交じる中、アンケートの確認作業を始めた。
1時間後、アンケートを確認し終えたミツルは疲労困憊に陥っていた。好きなものはしっかり書かれていた。その好きなものの癖が強すぎたのだ。「モンハン」「パズドラ」などの普通なものならまだいい。「般若心経」「富士御神火文黒綺羅紗陣羽織」「雇用利子および貨幣の一般理論」とかいうなんか意味の分からない「お前らそれ本当に好きなんか?」的なものが多数存在する。というかほとんどそういう類い。
頭が悪い癖に書くことは一丁前、などという謎の現象が起きてしまっている。とりあえず生徒のことを確実に1つ知ることができた。こいつらに常識は通じない。
「生徒の好きなものを知って楽しませる授業をしよう大作戦」がほぼ失敗に終わってしまった。果たしてこのバカどもにまともな授業をすることができるのか、不安しか残っていない。今日の仕事は終わり用もないので、さっさと帰ることにした。無駄に学校にいたくないというのは、生徒だけでなく、教師も同じであるのだと実感した。
職員室を出ると、夕日が良い具合に廊下を照らしていた。その光景、まさに黄昏のスタアライト。そんな廊下の向こうのほうから、黒い影が近づいてきた。近づいてくるにつれ、その影の正体が分かってきた。その正体とは、ミツルが初めて2年4組の教室で自己紹介をしたとき、ミツルに対して唯一疑問を抱いていた人物・・・
「『清波 英知』です。松山先生、お話があるんですが、これからお時間ありますか?」
清波来る




