第22話 先駆者のルミナス
「楽しませる授業ってなんだよ・・・」
楽しませる授業について思考すること2時間。先ほどは張り切っていたものの、なかなか良い案が出なくて軽く萎えている。
そもそも楽しい授業をした覚えもないし、授業を楽しいと思ったこともないんだよな。楽しい授業未経験の俺が、生徒を楽しくさせる授業をするなんて無理な話だとは思わんかね。
「なにを考えておられるのですか?」
突然、隣の中年男性に声をかけられた。しまった、知らない人に声をかけられてしまった。どうしよう。
「・・・あ、荒川先生。」
知らない人じゃなかった。この人は、先日ミツルが失神させた中年教師であり、モデルミの父親の「荒川 和博」だ。まさか隣の席だったとは。熟考しすぎてまったく気がつかなかった。それにしてもこのおっさん、失神させられたにも関わらずよく平気で声をかけられるな。
「あの、昨日はすみませんでした。」
「いや~大丈夫大丈夫。私のほうこそ悪かった。君の話を無視して勝手にしゃべってしまって。」
謝ったつもりが逆に謝られてしまった。意外とちゃんとした人だった。もっとこう、救いようのないクズ感を醸し出していたから、謝るなんてコマンドを持ち合わせてない底辺だと確信していたのだが。
「なにかお悩みですか?」
心の中で荒川をディスってたら、また心配された。そこでミツルは「楽しませる授業」とは何かを荒川に尋ねた。
「そんなもんは簡単さ。自分が楽しいと思える授業をすればいいんだ。」
こんなアホに聞いた俺が馬鹿だった。そんなものは既に思考済みなんだよ。その上で悩んでいるんだろうが。
「まぁ、一言で楽しいと言ってもね、価値観なんてそれぞれだ。自分にとっては楽しくても、相手にとっては楽しくないかもしれない。その逆もあり得る。そんなこと言っていたらいつまで経っても万人が楽しいと思える授業なんてできない。しかしね、1つだけそれを可能にするものがあるんだ。なんだと思う?」
急に問われた。楽しいと思える授業を可能にするもの?そりゃあもうっ、アレしかねぇだろ。
「努力」
「そう、『経験』だね。経験こそが最高の材料なのです。何事も経験。経験なくして良いものは生み出せない。あなたはまだ若い。その上、この学校に来たばかり。分からないことばかりなのは当たり前です。初めからうまくいくはずなんてありません。だからこれから、これから見つけていけばいいんですよ。あなたが必要とする「楽しませる授業」のための材料を、この学校でのたくさんの授業を通して。若いうちは「下ごしらえ」の時間なのです。だから、あなたのペースでやっていけばいい。」
「そう、『経験』だね。」の所でキレそうになったが、それを忘れさせてくれるほどの素晴らしい教えだった。この人からあふれ出ているのは救いようのないクズ感ではなく、救いを与える安心感であったのだ。
ミツルは初めて中年に対して尊敬の眼差しを向けた。半分以上聞いてなかったけど。
しかし、「経験」というのは良いヒントかもしれない。まだここに来たばかりで、生徒のことなんて少しも分からない。そんな生徒達に対し、楽しませる授業をしようなんてあまりにも高難易度過ぎる気がする。そう、まずは生徒達を知るところからはじめよう。それがこの「課題」に対する最初の一歩だ。
そうと決まれば善は急げ。ミツルは小さな紙を持って、職員室を出た。
「なにしろね、私だって若い頃はなにも分からないバカでしたからね。まさか教師になるなんて思いもしませんでしたよ。私の高校の頃の偏差値分かりますか?45ですよ45!今の自分の職業を高校生の自分に言ったらどういう反応するんですかね。『ええっマジかよ!』って言って机から転がり落ちそうですね。これでも私高校の頃はカードゲーム同好会に所属してまして、負けては椅子から転がり落ちてたんですよ。ちなみにね・・・」
この後もミツルの席の隣で、スイッチが入って一人で自分語りを繰り広げる荒川和博の図があったことは、ミツルは知らない。
荒川さん、いい奴だったよ・・・




