第21話 初陣教壇
「はい皆さんおはようございます!」
2年4組の教室に元気な声が響く。そう、その声の正体は松山先生になりすましたミツルだった。朝から女子高生たちから熱いあいさつを受けたおかげでテンションが最高にハイである。
「おはようございます!」
偽物とも知らずに、生徒達も元気にあいさつをする。
そして、これよりミツルの初めての授業が始まる!
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「『ごん、おまいだったのか。いつも栗をくれたのは。』ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。・・・というわけでだな、これからこの物語の感想を書いてもらうんだけど・・・」
「ああああぁぁぁぁぁ!!!ごんんんんんんん!!!」
「死ぬなあああああぁぁぁ!」
「ちくしょう兵十許さねぇ!ぶっ殺す!」
「やめろ高橋!憎しみはまた新たな憎しみを生むだけだぞ!」
「そうよ!岡島くんの言う通りよ!本当に恨むべきはこの作者よ!」
「なにいってんだ山本!結局憎しみ生まれてんじゃねーか!」
阿鼻叫喚の2年4組。そう、ミツルの初授業は「ごんぎつね」を朗読することであったのだ。そして、感想を書いてもらおうとしている最中、生徒達はこの物語の悔しさ、やりきれなさに発狂しているのだ。
「はーい、みんな落ち着け!反省会は休み時間にでもやって、今は感想を・・・」
「ていうかコレって自業自得じゃねーの?いたずらばっかりしてきたごんに罰が当たったんだろーよ。」
「なんだとコラァ!てめぇそれ本気で言ってんのか!?」
「上等じゃボケェ!その腐った性根を叩き潰してやる!表出ろ!」
「おいさっさとシビレ罠仕掛けろよ」
「は?お前持ってくるって言ってただろーが。落とし穴しかねーよ。」
「ハァ?てめーなに聞いてたんだよ。持ってこいって言っただろーが。責任持って雷光虫捕まえてこいよ。」
なんだこの状況。なんで小学校で使われる教材でここまで熱くなれるんだ?てかなんで高校でごんぎつね?なんでエリート( )の俺がこんなバカみたいなことやってんの?てか最後明らかにモンハンやってんだろ。はっ倒すぞ。
そうだ、忘れていた。この高校の偏差値は42だったのだ。42ってそんなにひどくなくねと思いきや、ここまでひどすぎるとは思わなかった。絶対42もないよコレ。
生徒達はミツルの言葉に聞く耳を持たない。ごんぎつね論争をする者。モンハンをする者。私語をする者。寝ている者。スマホをいじっている者。エトセトラエトセトラ・・・。
なんなんだこいつら。朝礼の時に元気で真面目そうなあいさつをしていたお前らはどこへ行ってしまったのだ?なんだろうこの状況。まるでアレだ。極道の娘が担任をしているクラスみたいだ。夢にときめけ的なクラスみたいだ。
「おいお前ら!!静かにしろ!成績下げるぞ!!」
ミツルが怒鳴ると、教室は一気に静かになった。さすが低偏差値。成績を下げるのようなセリフに弱いようだ。
こうして、無理矢理静かにして、感想を書かせて、ミツルの初授業は幕を閉じた。
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「松山先生、ちょっと。」
初授業が終わると、廊下にいた校長に呼ばれた。どこか悲しそうな顔をしている。
「松山先生、もう少し楽しい授業をしていただけませぬか?」
初授業のダメ出しをされた。
「たしかにあのように怒鳴れば静かにはなります。しかしじゃ、それでは何の意味もない。そんなことは誰にでもできる。松山先生や、私はあなたに『生徒が楽しくなるような授業』をしていただきたいのですじゃ。それはエリートであるあなたにしか出来ないことだと私は思いますじゃ。」
そう言うと、校長は去っていった。
『生徒が楽しくなるような授業』・・・。エリートにしか出来ないこと・・・。この校長の言葉が、ミツルのやる気に火をつけた。決してダメ出しをされたことが悔しかったからではない。松山先生になりきろうとするのであれば、校長の理想には近づかなければならないと思ったからだ。「やってやろうじゃねぇか。」と。
ミツルの目の色が変わった。楽しませる授業をする。やるべきことはそれだけだ。エリート教師としての血が騒いだとかいうわけではない。偽物とバレて豚箱に放りこまれるか、生徒を授業で楽しませるか。どちらがミツルにとってプラスかを冷静に秤にかけたにすぎない。
本日の授業はこれだけ。今からじっくりと、楽しませる授業を考えてやろうと決意し、堂々と職員室へ向かった。
そんな堂々とした背中を後ろから見つめる生徒がいた。
「やはり妙だ・・・」
懐かしいですよね、ごんぎつね




