第20話 In the Brilliant street
こんなに女子から挨拶されたらいいよなぁ
chapter2
― 嗚呼、素晴らしき(偽りの)高校教師生活 ―
希望に満ち溢れた夢から覚め、現実に引き戻されたミツルは、最悪な気分で朝の支度をする。今まではその日暮らしで、何時に起きようが構いやしなかったが、今の自分はあくまでも「松山孝則」なので、エリート教師としての支度をしなければならないのだ。
軽めの朝食を済ませ、スーツに着替える。昨日バリバリの私服で学校に行ったところ(まぁ突然のことだったから仕方ないが)、「申し訳ないですが、エリートとはいえ服装には気を付けていただきたいですじゃ。」と校長先生に注意されたからだ。昔1度着て、それから数年着ていないので、今でも新品同様の状態だ。まさか再び押し入れから出される日が来るとは思いもしていなかった。
支度が全て済んで、玄関の扉を開ける。厳重に外を見回す。よし、警察なし、ババアなし、異常なし。オールグリーン。胸を張って出勤し始める。
―――――
村雨学院高校まで徒歩20分。高校までは閑静な住宅街が続く。車通りもあまりなく、人々の往来がよく見られる。当然その中に、村雨学院高校の生徒も大勢いる。
「あっ、松山先生ェ〜〜ッ!」
前方にいた女子が、松山先生の存在に気付き、大声で叫ぶ。誰だあれ。ウチのクラスの生徒かな?かわいい。
「お、おはよう。」
咄嗟にぎこちない作り笑いであいさつをする。自然な振る舞いをしようとして、逆にぎこちなくなってしまうパターンのやつや。
「おはようございます!今日から松山先生の授業ですよね!楽しみです!」
彼女は偽物の授業を楽しみに思っていらっしゃる。なんだか良心が傷む。
「そうだな。ちゃんと励めよ。」
冷淡な返しをしてしまう。決してコミュ障というわけではない。ただ単に、エリート教師として出勤中に偶然遭遇した女子に話しかけられておしゃべりしてるともしかしたらこいつ俺に気があるんじゃねって勘違いして思いがけずはしたない想像を展開させてしまう自分の愚かさを反省することに夢中になっていると喋ることに集中できなくて.........変態で何が悪い!!
「じゃっ先生!私きょう日直だから先行くね!また後で〜!」
そう言うと、その女子は小走りで去っていった。あぁ、行ってしまった。謎の喪失感に襲われてしまった。名前も聞いてないし。てかウチのクラスの子なのかな?いろいろ気になることは山積みだ。・・・うう、なんだかスッキリしませんわぁ!
スッキリしないまま歩いていると、
「おっ松山先生じゃね?おっす」
「マジぽん?おー、松山先生じゃーん!うぃーっすぅ!」
後ろからチャラめの女子2人に声をかけられた。なんですかこれは。カツアゲですか?
「お、おはよぅ。」
相手の気分を損なわないように、弱めにあいさつをした。
「なんだよ松山ァ!元気ねぇぞコラァ!」
「もっと声張れやァ!」
逆効果だった。弱気な人間にイラつく部類のギャルだった。あぁ嫌だ。ギャル嫌い。帰りたい。
「・・・シャキッとしろよ。アタイ、頭いい男嫌いじゃないから。」
「・・・ウ、ウチも。」
ギャル2人が少し顔を赤らめる。声も少し穏やかになった。2人の突然の杓変ぶりに、ミツルは思ったことをそのまま口にした。
「ツ・・・ツンデレかよおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ミツルの大声が、閑静な住宅街に響く。決して、声を張れと言われたからではない。ただ単に、ギャルのツンデレギャップにこの上なく萌えを感じてこの抑えることの出来ない衝動をあくまで紳士らしく発散しようと努力したところやはり内なる獣の暴走に抗うことができずに.......変態で何が悪い!!
「おっ、やればできるじゃン!」
「ファイトー!松山先生〜!」
そう言ってギャル2人は足早に去っていった。
・・・なんだ?エリート高校教師になったら通学路でこんなに女子に話しかけられるのか?ゴミを見るような目ではなく、尊敬を含む目で見られるのか?
「おーい松山先生〜!」
また別の女子が話しかけてきた。
「お、おはようございます・・・松山・・・先生・・・」
今度は別の弱気そうな女子が。
「ハーイ!松山センセー!グッモーニン!」
今度はカタコトの留学生の女子が。
「よう松山」
今度は生意気な不良女子が。
体育系女子が...関西弁女子が...女生徒会長が...小学生みたいな女子が...女子が......次々と松山先生にあいさつをしてくる。
これは村雨学院高校に古くからある「エリートには積極的にあいさつするべし!」という伝統によるものである・・・・・・わけではない。
ただ単に男のエリートに通学路であいさつでもして優しくしておけば彼の行うテストの成績が悪くても、予め打っておいた女子力を利用すればお咎め無くなるんじゃね?とかいう、要するに松山先生を舐めきった態度によるものであったのだ。まぁ、単純に先生にあいさつをした礼儀正しい女子もいたのだが。
知らぬが仏というやつかもしれない。
(エリート高校教師、サイコーーー!!!)
ミツルは、女子高生たちの素晴らしい洗礼を受け、心の中で叫び、そして涙した。あいさつをした女子高生の中に、黒い影がいたことも知らずに・・・




