第16話 アルティメット公務
「警察ですが。」
警察が来た。
年齢は二十代といったところか。なかなか若い。
「警察、が、どうか、しましたか?」
できるだけ動揺を隠そうと努力したが、無理だった。警察官がいるから、という理由もあるが、第一に目の前にいる警察官の目がヤバイ。今にも逮捕してやる、みたいな鋭利な目つきをしている。これほどまでに自分の感情を顔に出すやつがいるのか、と正直驚いた。
「・・・」
警察官は何も言わない。しかし、恨めしそうにこちらを見ている。
「あの、なにかありましたか?」
警察官が家に来るのは初めてだ。そして訪問してきた警察官がなにも喋らないというのも初めてだというのは、よくある話ではないだろう。そんなパターン聞いたことない。
「・・・トトロは二人にしか見えないんじゃない、二人の前にしか姿を見せていないだけだ!」
そして、いきなり喋りだしたかと思いきやトトロの論争を始める、というパターンもまぁ現実には無いだろう。
「・・・それをいきなり二人しか見えないとか言っちゃってさぁ、よくメルヘンチックとかいう単語であの物語をまとめようとするよね。てかアンタただ単にメルヘンチックって言いたいだけだよね?どうせトトロなんてロクに見てねーんだろ?ちょっと友達と話し合わせるために教養として軽く見ただけだろ?え、死ぬ?ここで死ぬ?」
一方的に話を進めるのはとなりのババアと同じだった。なぜ俺を訪問してくる人間は皆トトロにいちいち強いこだわりを持つ人間ばかりなのだろうか。
それにしてもこの警察官は何をしにきたのか。とりあえず、俺に目星がついているわけではなさそうだ。そんな重要な案件を抱えているのならば、こんな玄関先でアニメの話に熱中するわけがない。
それにしてもカップ麺にお湯を入れて三分はとうに経過してしまっている。せっかくの至福、空腹を満たしてくれる最高峰の至福を、三分以上お湯で満たしたままにしてしまっている。
だんだんイライラしてきた。なんでこんなクソポリ公に至福を邪魔されなければならないのだろうか。この精神状態ゆえ、少し強い口調で、
「・・・うるせぇな。たかがフィクションの細かい所に熱くなってんじゃねぇよ。」
言い放ってしまった。仮にも犯罪者が、仮にも警察官に対して。しかし正論だ。口調はともかく、言っていることはごもっともだ。
別にサツキとメイが死んでいようが、トトロがメルヘンチックな存在であろうがなかろうが、大した問題ではない。別に我々が死ぬわけではないし。そんなものにいちいち熱くなって自分の考察を述べたところで、結論は出ないのだ。すべては監督次第なのだ。じゃあ今から監督にインタビューしてこいっての。
いや、そもそも結論を出す必要はないのかもしれない。結論を一つに固定してしまうのは狭い生き方だ。物語の在り方は幾重に存在していてもいいのではないか。その人が思ったように。それを他人に押し付けるのは正しいとは思えない。
「・・・貴様。公務執行妨害だ。」
しまった、警察官の切り札「公務執行妨害」を発動させてしまった。警察って、こう言っておけばなんとでもなるもんな、えぇ。
「いやいや、ちょっと強めに言ってしまいましたけれども、公務執行妨害にはならないでしょうよ。」
ミツルは冷静に対処する。もうこれどっちが警察官かわかんねぇな。犯罪者が冷静で、警察官が激昂しているという、下克上のような状況だ。
「いいや、貴様は私の心を傷つけた!」
いや知らんわ。あの程度で傷つくカバーガラス並の心の警察官なんて聞いたことありません。多分史上初だと思いますよ。はいギネスギネス!
「はい、午後7時42分。現行犯逮捕。」
そう言って、おもむろに手錠をかけようとする。
「いや待って!流石にこんなことで手錠はおかしい!」
「やかましい!貴様のように急に正論を言うようなやつにロクな奴はいない!フィクションだろうがノンフィクションだろうが、細かいところに熱くなることの何が悪い!?」
この警察官、ちょっと涙目になっている。よほど正論を言われたことが悔しかったのだろうか。しかしそんな場合じゃない。一刻も早くこの警察官を振り払わないと、罪状は違えど逮捕されてしまう。こんなくだらん理由で!
「はいはいストップ!はい御子柴くん、ダメダメ!そんな理由で逮捕しようとするのは!」
突如、このヤベー警察官を制止する存在が現れた。それは警察官だった。警察官Bだった。
サークル活動忙しくて投稿停滞してました。




