第14話 ミツルと松山
「・・・すみませんね、茶の一つも出せないで。」
とりあえず部屋に入れと言われて遠慮なく入った。そして松山先生は、布団に入った。まぁインフルエンザ患者なのだから当然だろう。初めて顔みた時すごく死にそうだったし。まぁある意味死ぬかと思ったのかもしれない。殺人犯来たんだし。
現在、座布団に座るミツルと、布団で横になる松山先生という瓜二つコンビの奇妙な光景が繰り広げられている。こういう時、ドッペルゲンガーという言葉があてはまるのだろう。
それにしても奇妙だ。なぜ松山先生は、俺を殺人犯と知って家に入れるのだろうか。さっさと鍵を閉めて、警察を呼ぶのがテンプレであろうに。
「・・・なぜアンタを家に入れたのか疑問そうな顔をしているな。」
うわぁ流石エリート。相変わらず人の心までお見通しだ。しかし辛そうだ。声では冷静を保っていても顔は辛そうだ。
「いや、そりゃあ疑問に思うだろ。殺人犯がお前の学校の教員を騙って接触しようとしてんだぞ。」
決して開き直って言うことではないのだが、現状況のおかしさに開き直るほかなかった。
「・・・やはりか、やはりアンタはあの殺人犯だったか。」
してやったぜ、みたいな顔で松山先生が笑った。あれ、これ俺地雷踏んだ?自白しちゃったこれ?
「いや、ここらで殺人事件があったと報道されていて、かつ私と似ている人間が教員を騙って私に接触しようとしている。それで、これまでの考察から、アンタは私と顔が似ていることを利用して警察の目から逃れようとしている殺人犯ではないかと考えた。幸運なことに、まだ犯人の素性は判明していないしな。そして、現在進行形で私の存在を邪魔に考えたアンタが、さしずめ俺を処理しにきた、と言ったところか。」
圧倒的なエリート的考察力で見事にしてやられてしまった。
しかし、絶対にピンチな状況のはずなのにまだ犯人の素性か分かっていないという事実に、ミツルは安堵していた。
それにしても、自分が処理しされるかもしれないという考察をしておきながら、なぜ俺を部屋に入れたのか尚更理解できない。俺だったら絶対入れないよ。
「・・・まぁ色々理解できないかもしれんが、とりあえず私のインフルエンザが治るまで待っていてくれないか。インフルエンザが治ったら、私とアンタが入れ替わることに協力してやる。」
松山先生は、なにやらミツルにとってとても有利っぽいことを言うと、早く寝たいからとミツルを部屋から追い出した。この松山先生、目つきといい口調といい、なんだか人が変わったかのような印象をミツルに与えた。まぁ、腐ってもインフルエンザだからだろう、とミツルはこの時考えていた。
部屋に入ってからほとんど喋っていない気もするが、何故か松山先生が協力してくれるようなので、ミツルは足早にヴィクトリア村雨を去った。疑問点は山積みのままだが・・・
とりあえず松山先生のインフルエンザが治るまではミツルはミツルハウスへ帰らなければならない。即ちいつ証拠をあげられ、逮捕されるか分からない恐怖を孕む行為である。しかしミツルはそんな恐怖よりも、去り際に松山先生が放った一言が、ずっと頭から離れずにいた。
「一つ言っておきますと、私はあなたの味方ではありませんからお気をつけて。」
インフルエンザなのに他人と話しちゃダメぇ!




