第108話 新しい絆
松山からかなり離れた道端で、麗華は息切れを起こして地面にひざまずいていた。
「はぁ・・・はぁ・・・、ほんと私ってバカなヤツよね。」
「どうして逃げたんですか。」
「ぎゃっ!」
疲労困憊の中、再び何者かが顔を覗かせてきたのだ。まぁ2度目なので麗華はすぐにその正体に気付いた。
「み、御魂・・・さん・・・?」
「はい、霊落 御魂です。」
言われなくとも分かっとるわい、と心の中で叫んだ。実際に叫ぶ気力はなかったのだ。
「・・・あ、あなた、影薄いってよく言われない?」
「え、はいよく言われますが・・・、なんで知っているんですか。」
そりゃあ2回も背後から顔を覗かせるまで気付かれないなんて、影薄い以外に考えられねぇだろ、と心の中で軽くディスる。
「で、何の用・・・?」
「どうして逃げたんですか。」
「・・・何から?」
「松山先生から。」
なんでこいつが私が松山先生から逃げてきたことを知っているのか。見ていたのか、ずっとどこかから見ていたのか。だとしても、なんでそこまで松山先生について私に言及してくるんだお前は、と思った。
だが、この際そんなことはどうでもいい。1人で抱え込むのもしんどいし、相手が聞いてくるのならそれに答えても別にいいか、と心身共に疲弊している麗華は、素直な気持ちで話すことにした。
「松山先生が私にキスした理由を聞いたの。なんでかって言われたら、はっきり言えないんだけど、なんで私が暴走している時にキスするという経緯に至ったのか知りたかったし・・・」
「知りたかったし・・・?」
言葉を濁す麗華を、御魂が食い気味に煽ってくる。ばつの悪い気持ちになりながらも、麗華は続ける。
「その経緯の中に、私への好意が含まれていれば、その、嬉しいかな、というか、いいなぁって、思って・・・」
「麗華さんは、松山先生が好きなんですか?」
「・・・!」
初めて他人から聞かれた。松山先生のことが好きなのか、と。心の中では何度も考えたことはあっても、いざそれを他人から問われると自信を持って答えることができない。
だが以外にもあっさり、麗華は自分の気持ちに答えを出した。何がきっかけとなったわけでもなく、ただ単に改めて自分の心に問うただけにすぎない。
「私は松山先生が好き。それは間違いないわ。」
麗華ははっきりと答えた。これが私の結論だと。
「麗華さんは、その上でどうしたいんですか。」
なぜ御魂がここまで問いただしてくるのかは分からない。でも、麗華はこれにも素直に答える。
「別に、どうもしないよ。」
麗華の答えに、御魂は初めて驚いたような表情を麗華に見せる。
「松山先生に、好きになってほしいとか、ないんですか?」
「ないよ。」
だんだんハードになっていく質問に対し、麗華は清々しい表情で続ける。
「そりゃあ、好きでいてくれたら嬉しいよ。でも松山先生が私を好きだろうとそうでなかろうと、別に関係ないよ。あの人に好きになって欲しいなんて、私にはそんな資格ない。私は悪い子だから。」
「麗華さんは別に悪い子なんかでは・・・」
「ううん、悪い子だよ。私はいつも先生から何かをもらってばかりで、何も返せていない。感謝の言葉だって、あの人は受け取ってはくれない。その代わりにあの人は私に優しさをくれる。そうやって結局、松山先生からの感謝の気持ちだけが増えていく。あんないい人に守ってもらってばかりで、私は悪い子だよ。」
御魂はなにも言わない。麗華のまっすぐな覚悟を否定することなんてできない。そんな気持ちで、御魂はただ彼女の話に入り浸る。
「だからわがままは言わない。片思いだろうと言われても、私は構わない。ただ私は、あの人に憧れていたいの。それだけで、たったそれだけで私は幸せなんだ――」
素直な気持ちで、その心の思いを話す麗華は、いつの間にか自分が涙していることに気付いていなかった。それに気付くと、恥ずかしさをあらわにしながらハンカチで拭う。
「じゃあ、麗華さんは私のライバルですね。」
また急に、御魂は意図の分からない口を挟んできた。心なしか、目が煌めいているように思える。
「どういうこと?」
「実は私も、松山先生に憧れているんです。だって彼は私たちのリーダーの恩人ですから。」
麗華は納得するとともに、改めて実感した。松山先生は、私だけでなく多くの人が憧れる人物なんだと。やっぱり私は悪い子だった。
とある夏の日、敵対していた2人の少女の気持ちが繋がった。それが自分のおかげであるということは、松山本人は知る由もなかった。
Chapter6
~愚者たちは聖戦に詠う~ 完
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最終話とは言うものの、いったんの区切りであって、物語はこれからも続きます。
楽しみにしていただけると嬉しいです!




