第104話 喉元過ぎれば・・・
夏は暑い。夏だから暑いのだが、暑いから夏だという者もいる。どちらにせよ、夏は暑いのだ。厳しい日差しが肌に刺さり、人々は汗をかかざるを得ない。それが夏というのもだ。日差しの刺さらぬ木漏れ日の中にいても、暑さはそれなりに感じる。それが夏というものだ。
「・・・う~ん、暑い。」
暑さに耐えきれず、麗華は目を覚ます。木陰の中で仰向けの身体を起こすと、周りには誰もいない。
「あれ、たしか私は・・・」
「あ、起きましたか麗華さん。」
「え・・・、誰あんた。」
「天海ですよ、神田 天海!」
「あ~・・・」
寝ぼけているからか、そもそもその男に関心がないからなのか、麗華の後ろで濡れたタオルを手に座っている神田天海のことを認識できなかった。天海から濡れタオルを受け取ると、小さく礼を言い汗を拭く。
「大丈夫ですか、麗華さん。」
「えぇまぁ。あの、私さっきまで、その・・・」
「暴走していましたよ、1時間前まで。」
「ですよね。」
心を『レイカ』に奪われ暴走していたことを、夢では無く現実であったことを、天海の発言から確信した。
「で、第4試合とかってどうなりましたか?」
「え、あぁ、この4番勝負は第4試合を迎える前に中止になりました。」
「え、あ、そう・・・」
試合の中止を知った麗華は、色々あったのだから中止するのも仕方が無いと心の中で納得した。
試合中止の話はそこそこに、麗華は次に天海の心配をする。
「あの、大丈夫でしたか。私、あなたにも危害を加えませんでしたか?」
「え、う~んまぁ、別に大したことないですよ。」
そう言って、天海が包帯の巻かれた右腕を咄嗟に隠すのを麗華は見ていた。本当は怪我をしたのに、それを気にさせないようにしているのだと、麗華はなんともやるせない気持ちになった。
「優しい方なんですね。さっきまではふざけた人だとばかり思ってましたけど。」
「いいえ、さすがにこんな状況でまでふざけてられませんよ。」
「TPOをわきまえているんですね。」
「まぁ、そんな感じですね。」
不器用そうに笑う天海の表情は、どこにでもいるような好青年のように見えた。しかし彼女の前でふざけて、再び殴られるようなことだけはゴメンだと思っているとは、口が裂けても言えない天海であった。
「あ、じゃあ松山先生呼んできますね。」
「えっ、あの、その、えっ」
目覚めたことを報告するために立ち上がった天海に対し、動揺する麗華。
「なにか、問題でもありますか?」
「いえ、別に・・・」
「じゃあ呼んできますね。」
問題があるかどうかははっきりとは分からないが、いま松山と対面するのはどこか気まずいような気がすると本能が叫んでいる。力業で天海を止めることもできたが、そこまでする理由もないし、なにより不自然だと思い、自粛した。
「なんでだろう。なんで松山先生が来ることに動揺しているんだろう。」
「それはですねぇ・・・」
「ひぃっ!!?」
麗華は目を丸くして驚いた。何者かが背後から静かに顔を覗かせてくるという予期せぬ事態に驚くのは、人間なら当然のことであろう。落ち着きを取り戻し、その正体を認識する。
「あなたは、たしかリトル・プリンセス・・・」
「あ、いえ、私の名前は御魂、霊落 御魂です。リトル・プリンセス=ヒミコは本職の方で使うハンドルネームです。」
「え、あぁ、そう。」
「御魂とお呼びください。」
麗華を驚かせたその正体はSeReKaのメンバーの1人、リトル・プリンセス=ヒミコ改め、霊落 御魂であった。本職と言われてもピンと来ないので、麗華は問う。
「本職って、何をしておられるのですか?」
「霊媒師です。」
少し間が空く。
「レイバイシ?」
「霊媒師。」
「あーなるほど、霊媒師ね、うんうん霊媒師・・・」
「霊媒師!!??」




