第100話 この世界を許さない
「「行くぞオラァァァァァァァァ!!!!!!!!!」」
スタートするや否や、男達は簡易キッチンに向かって走り出す。
「えっ、松山先生、何を・・・」
1人取り残される麗華が、刹那のもとへ走っていく松山に尋ねる。
「刹那の手伝いをするんだよ。ルールでは『1人で料理しなければならない』なんてないからな。」
松山は走りながら答えた。「なるほど」と納得し、麗華も走り出す。
2人は刹那の調理補助をするために走り出した。
同様にして、英知と天海もヒミコの手伝いをするために走っているのであろうと、麗華は考えていた。だから無論、彼らはヒミコのもとへと走っていくのだろうと、純粋な麗華はそう考えていた。
しかしその純粋さは、すぐに裏切られることになる。英知と天海は、予想に反して刹那のもとへと軌道を変えた。いや、むしろ「軌道」は元々そうだったのかもしれない。
「何故・・・!?あの2人は何故・・・」
麗華には分からなかった。何故あの2人は自分のチームではなく、敵のチームの簡易キッチンに向かって走っているのかが、全く理解できなかった。
麗華は気付いていなかった。彼女は素直で優しいのだ。それゆえ彼女は、相手を妨害するなどという野蛮な考えに至ることはなかったのだ。よってこの第3試合が「協力」するものではなく、「妨害」するものであるという暗黙の真髄に、気付いていなかったのだ。
「くらえッ!!」
そう言って英知は勢いよくチーム・ジュリアスの簡易キッチンに砂をばらまく。
「な、なにをするッ!」
「ふんっ、ルール違反はしていない!『相手を妨害してはいけない』というルールなんてないからなぁ!!ほらよっ!!」
怒る刹那に構うこと無く、英知は砂をばらまいては妨害行為を続ける。
「やめろお前ら!!」
刹那の妨害をする2人を、松山が止めようとする。
「見損なったぞお前ら・・・。たしかに『妨害してはいけない』なんてルールは無い。しかし、そんなのは良識の範囲内であると理解しているだろうから、そんな野蛮な行為はしないと信じていたのに・・・」
「自分の価値観を他人におしつけるのは傲慢って言うんですよ?」
「・・・そうかい。お前らはとことん腐ってやがる。第1試合の落とし穴といい、お前らは勝つためならどんな卑怯なことだってするんだな。」
「勝つためには手段を選ばないのでね。」
松山と英知が鍔迫り合う中、天海が1人妨害行為に走る。2対1では数の有利もあって圧倒的に不利。
やがて英知に押し負け、松山は倒れ込んでしまう。砂を強く握り、2人を止められない悔しさと、姑息で醜い行為への悲しさを憂うように、握った砂を思い切り空に投げ捨てる。
いま己の目の前にあるのは、料理をする少女の妨害をする野蛮な2人の男の姿だった。真剣勝負とはかけ離れた、なんとも無様で残念な光景であった。
「・・・すまない、刹那。」
松山は小さく弱々しく謝る。不甲斐ない己の弱さを詫びるように。
「すまない、麗華。」
刹那への謝罪に続いて、麗華にも謝罪をする。しかし、異様だった。
「・・・麗華?」
思わず小さく彼女の名を呼んだ。彼女が麗華であることを思わず確認してしまうほどの異様さが、そこにはあった。
どうしてあなたたちは、そんなことをするの。どうして、刹那の邪魔をするの。あの子は一生懸命頑張ろうとしているのに。あの子は負けたくないと泣いていた。その涙は、あの2人によって踏みにじられてしまうというの?負ける?私たちが・・・負ける・・・英知・・・天海・・・砂・・・卑怯・・・最低・・・松山・・・先生・・・すまない・・・刹那・・・涙・・・私は・・・私は・・・見てる・・・だけ・・・?嫌・・・そんなの・・・
「・・・ぃやぁあああああああああああああ!!!!!!!」
麗華のあげた悲鳴のような奇声に、場にいる全員が、彼女の方を見た。
妨害をしていた2人も、調理をしようとしていた刹那も、調理をしていたヒミコも、皆その手を止めた。
「大丈夫か、麗華!?」
松山は味わったことのない麗華からのプレッシャーに畏怖しながらも、彼女の下へ駆け寄る。
「・・・来るな!!」
麗華は叫んだ。松山はそれに応じるように急停止する。そして感じた。彼女は正気では無いと。今の彼女に会話に応じる意思はないと考えたのち、正気を保たぬ麗華をただ見つめることしかできなかった。
あんたたちはもう、勝つためなら手段は選ばないというのね。あぁそう。じゃあ分かった。もう全て終わりにしてしまおうか。こんな最低で最悪な世界、何もかも全てぶっ壊してしまおうか。もううんざり。もうどうでもいい。どうでもいいけど、あんたたちは・・・お前らは・・・お前らだけは・・・
「―――許さない・・・!」
麗華の心に灯る怒りと悲しみの焔。誰の声も届かない深淵に、彼女の心は墜ちていく。
ついに100話まで来ました。ここまで読んでいただきありがとうございます!




