第9話 校長システム 上
校長先生が去ってしばらく経ってもなお、中年男性どもは喝采に満ちている。どいつもこいつもポイントポイントって、なんのポイントだよ。
「すみません、ポイントってなんですか?」
ミツルは身近にいた中年に聞いてみた。
「あのね、校長先生の前で礼儀正しかったり、感心されるようなことをしたら『校長ポイント』がもらえてね、それが100ポイント貯まったら有給がとれるんだ。」
真剣な顔でなにを言っているんだこのオヤジは。100ポイント貯まったら有給って、逆に100ポイントなかったら有給とれねーのかよ。労働基準法どうなってんだ。
「ちなみに、70ポイントで黒毛和牛、50ポイントでボジョレーヌーボー、30ポイントでチーズ鱈と交換できるんだ。」
ポイントの価値がわからなくなってきた。30ポイントをチーズ鱈と交換するヤツなんているのか?ていうか有給はチーズ鱈3つくらいと同価値なのか。なんだこの町内の飲み会的なノリは。ここは高校なんだよな?腐っても高校なんだよな?
「たまにね、250ポイントまで貯めて一気に全部の景品を交換する『仙人』と呼ばれる人もいるんだよ。ほら、あそこの席の人がそうだよ。」
中年が指さす方を見る。そこには、机の上に立って逆立ちをして発狂している『仙人』に該当する中年がいた。
「ぐははははは!!250ポイントじゃああああ!!明日は有給とって、家で一人で黒毛和牛とチー鱈とともにボジョレーを味わいながらダラダラとテレビ観るんじゃあああああ!!ふはははははは!!!」
平日の朝から可哀想な中年を見た気がする。チーズ鱈くらい自分で買えよ。ここはなに、都心の公園?炊き出しを待ち望んでいたホームレスの方々ですか?
「おお山下さんやりましたね!」
「羨ましい限りです!」
「はっはっは!怯えよ!讃えよ!」
「仙人、仙人!」
「ジークジオン!」
「エロイムエッサイム!」
「祝杯は焔の高鳴りおよび業火とともに」
周りの中年どもが250ポイント所有する仙人・山下に対して拍手している。とりあえず最後の人明らかに炎魔法詠唱してたよね?
「でね、何をしたらどれだけのポイントがもらえるかについてなんだけど・・・」
いやもういいよ。どんだけその謎システムの説明を真剣な顔でしてくるんだよ。しつけーよ。
「あの、ところで、僕の席ってどこですかね?」
話を変えて流れを止めた。
「校長先生に挨拶をしたら2ポイント、校長先生にお茶を淹れたら4ポイント・・・」
こいつ、聞いていない?・・・ふざけやがって、どこまで頭がメルヘンに侵食されてんだこのお花畑野郎は。
「・・・おい」
ミツルの目が変わった。先ほどまでの弱々しい目ではなく、まるで人を殺すかのような、獲物を狙い定めているような目に豹変した。これには話を聞かない中年も言葉を詰まらせた。
「え、どうしたの・・・?」
「そんな話どうでもいいからさっさと俺の席を教えろ。早く教えろ、お前の首が繋がっているうちに・・・」
「!!??」
ミツルの冷たく穏やかな脅迫。自分より弱い者にしか見せない邪悪なる表情。ミツルの内なる牢獄に封じられていた凶悪な獣が、中年の長々しく鬱陶しい立ち話によって、一時的に解き放たれてしまったのだ。
「・・・あっ」
ミツルは我にかえった。まずい中年が固まってしまっている。どうしよう、赴任初日から職員を脅迫してしまった。みんなこちらを見ている。怪しまれたか・・・?
否。この時、室内の中年どもはミツルを怪しんではいなかった。ただ、彼らはこう思っていたのだ。
『これがエリート特有の、プレッシャーか!』と。
比較的有給取りやすそう。




