『日記』
担当の看護師が変わった。なんだか少しカッコいい感じのお姉さんだった。詩織さん、と言うらしい。その人に日記をプレゼントしてもらったので書き始めたいと思う。
今日はお母さんに頼んで有栖川さんの新作を買って来てもらった。やはりこの人の作品は面白い。その事を詩織さんに言うと「弟も同じような本を買っていた。でもそんな厚い本読んで眠くならない?」と言われた。
早くも書くことが無い。病院生活は代わり映えが無く全てが退屈だ。毎日書くのは大変なので何かおもしろい事があった時にだけこの日記を書くことにした。あと暇を潰せるものが無いか今度詩織さんに相談してみよう。
詩織さんが病院の図書室がある事を教えてくれた。けれどここから少し遠く心臓に負担が掛かる為代わりに借りて来てくれるそうなのでご厚意に甘える事にした。
少し愚痴りたい事がある。詩織さんの選ぶ本の事だ。シリーズものなのに途中から借りて来たり、借りて来るジャンルがごちゃごちゃなのが気になる。どうやら詩織さんは本を全く読まない様だ。
詩織さんにその事を伝えたら「善処はしてみるが期待はしない事。聖書と文学小説の違いすらわかるか危うい」と自分で言っていた。もう色々諦めた方が良いかもしれない。
しばらく書いて無かったこの日記を久しぶりに書く。詩織さんの弟さんが入院するらしい。なぜ詩織さんは弟が倒れたと聞いて面白そうに笑っているのだろうか。少し危ない人なのかもしれない。
弟さんをはじめてみた。というか喋った。今度から弟さんが詩織さんの代わりに選んできてくれるそうだ。今日選んできてくれた本はとても面白かったので期待してる! あと彼も本が好きらしい。
意外と本の趣味が合う事にびっくり。彼も同い年で本の話が出来る人ができて嬉しいと言っていた。もちろん私もうれしかった。
今日は私のおすすめの本を貸す事にした。気に入ってくれるだろうか。
大いに気に入ってくれたみたいだ。自分の好きな本を好きになってもらえるのはとても嬉しいのだと知った。こんどは何を貸そうか考えておかないと。
詩織さんに彼が実は小説を書いている事を教えてもらった。読むだけではなく書いているとは。読んでみたい! と思った。
「今日は顔色が悪いよ? 大丈夫?」と彼に言われた。心配をかけてしまったみたいだ。病気の事は彼には言えていない。どうしようか。
詩織さんに相談してみると何故だかメイクを教えてくれることになった。「化粧で顔色は誤魔化せる!」と力説していただいた。たまに化粧で二日酔いも彼女は誤魔化していると言っていたが大丈夫だろうか。
お化粧をしてみたはいいものの彼は気づいてくれなかった。少しムカついた。いやでも、顔色をごまかすためだから気づかれても困るのだろうか。我ながら複雑な乙女心である。
今日は彼と少し喧嘩した。気まずい。明日も来てくれるだろうか。
彼は気にした様子もなかった。私だけ悩んでてなんかムカついた。また少し強めに当たってしまった。反省しなければ。
よく考えると彼の姉は詩織さんなんだからあれくらいの喧嘩では少しも気にしないのは道理であるのかもしれない。強めに当たるくらいが丁度いいのではと思う事にする。
詩織さんが病気の事は話さなくていいのかと尋ねてきた。正直迷っている。けれども彼は優しいからきっと気を使ってしまうだろう。それは嫌だ。
彼から学校での話などを聞いた。学校は何年行ってないだろう。本当だったら私にも普通に友達ができて、普通に恋をしてという人生があったのだろうか。
少し暗い話になってしまっていた。彼のおかげで両方叶ったのだから良しとしよう。
そろそろ彼の退院日が近づいて来ている。そう思うと悲しいが、彼に会うと笑顔になれる。
結局、話してしまった。彼は退院してくれてもたまに来てくれるだろうか。むしろ来て欲しいから言ってしまったのだろうか。分からない。
今日、彼は退院した。午前中の退院だったので午後はとても静かだった。久しぶりの、静けさだった。
ビックリした。彼が見舞いに来てくれた。家から本を何冊も持って来てくれた。「休んでしまった分の補修があるから一週間に一度しか来れないけど……」と彼は申し訳なさそうに言っていたがそれでも嬉しい。自分でも笑っちゃうくらいに彼が好きだ。
また学校であったことの話を聞かせてくれた。彼は図書委員らしい。休んだ分こき使われたそうな。
やっぱり体調が悪い。お医者さんに手術を受けなければならないと言われた。成功率10%か。きっと助からないだろうな。
日記を書くのが辛くなってきた。ノートも終わりかけだからここらで筆をおきたいと思う。もし誰かが読んでくれたのなら、ありがとう。さようなら。
汚い字でごめんなさい。終わりと言ったけど、少しページが余ってたので少しだけ。恵くん……。大好きだよ。もう少しだけ一緒に居たかったし、願わくばずっと居たかったな。詩織さんが言ってた恵くんの書いたっていう小説も読みたかったな。
あー。死んだらどうなるんだろうね。わかんないね。でもね。でも一つだけ確信を持てるのは――もし生まれ変わったなら、きっと、私はまたあなたを好きになる。
誰かの目に触れて。何かの意味を持てたら。




