『どうしようもなくちっぽけな僕ら』
あと一話だけ。お付き合いください。
「明日、手術なんだってな」
「うん……。私が……死んじゃ…ったら恵が……寂しく……なっちゃう…ね」
僕の問いかけに対し、酸素マスクの様なものを付けた秋穂が苦しそうに答える。
「別に。本の事を話す相手が居なくなっちゃうなーって感じだよ」
あの時とはなんだか立場が逆だよな。おかしいよな。
「まあ、正直すんげー寂しいからさ」
「そっ…か。さみし…いか……」
その言葉に嬉しそうにえへへと笑う秋穂。
「寂しいから――頼むから死ぬなよ……」
それを聞いくと困った様に笑った
「姉貴に聞いたけど助かる確立だってあるんだろ! 手術だって偉
い先生がやってくれるんだろ!」
「だから――」
頼むから死なないでくれよ……。最後はもう声になんてならない声だった。
「な…かないで……」
笑顔でいなきゃなんて、わかってるんだけど。それでも涙が出てきて。
僕の涙は止まらなくて。それなのに秋穂は嬉しそうに笑っていて。
「秋穂。手術が終わったら伝えたいことがある。だから生きろよ。頼むから生きてくれよ」
「きぐう…だ…ね……。わたしも……あるんだ。だから……いきなきゃ……だね」
そう言って秋穂はまた心から嬉しそうに笑うんだ。
彼女の最後の笑顔は、いつまでも、いつまでもその笑顔は僕の心に残っている。
僕らは二人で読んだ本に出てくる、物語の主役でもなんでもなくて。
無力で、ちっぽけな、ただの子どもで。
奇跡なんてものもどこにもなくて。
「これ。娘から彼方に……だそうです。あの子の日記です」
秋穂の葬式で、彼女の母親にそう言って手渡された。
「でも、僕なんかがもらっていいんですか。その……娘さんの大切な品なんじゃないですか?」
「いいのよ。あなたのおかげで娘は笑顔が増えて、とても楽しそうだったから。親として娘の最後の頼みくらい叶えてあげたいもの」
そう言って手渡された幾つかのノート。
家に帰り覗いてみると、どうしようもなく涙が溢れてきて……。
なんだよ。たくさん言いたいことあったのに言えなかったじゃねーかよ。なんでおまえだけ伝えてんだよ。卑怯だろそういうの。
ホントに。卑怯だろ。
後になって、泣いて、泣いて、涙なんて枯れた後に、少しだけ、決めたことがある。
僕は秋穂の事を小説にしようと思う。
まずは今回の事を。
次に彼女の望んでいた普通の生活を。
そして、僕らがまた出会い。好きになるまでの物語を。




