『伝えたいこと、伝えられなかったこと、伝えたくなかったこと』
というか連載形式でやる意味はあったのだろうか。
「退院、明日だね」
秋穂が本のページをめくりながら喋りかけてくる。
「うん……。俺がいなくて寂しくなるだろ?」
湿っぽいのもどうかと思ったのでいつもの調子でからかってみる。ホント最初の頃とはえらい違いだけど、こっちの方がお互い楽でいい。
「別に。本を借りてくる人が居なくなっちゃうな~って感じかな」
「お前な……」
「まあ、しょーじきね。やっぱ恵が居なくなるのは寂しいかな」
そう言いながら彼女の白い手はまたページをめくる。
「そっかー。さみしーかー」
「いや。何か気持ち悪いんだけど」
いや。口調と目が本気なんですけど。
「冗談だよね……?」
という言葉に秋穂はニッコリほほ笑む。
「いや。なんかさ」
「なに。またつまんない事言ったら本の角で叩くよ?」
「まじめな話まじめな話!」
こえーっうの。
「なにさ」
「なんかこーさ。三ヶ月入院って言われた時すんげー嫌だったけども、まあなんかさ。これはこれで良かったかなって思うんだ」
改まって言うのもなんか照れくさくて、秋穂の顔が見れない。自分の顔が赤くなっているのを自覚するとさらに照れくさくて。少しだけ早口になって。
「だってさ。今まで同年代で本とか好きな奴いなかったしさ。だからさ。――うん。色々ありがとな」
「ありがとうって何がよ」
そう言って秋穂は笑う。
「そりゃまあ……。色々だよ……」
「んじゃあ、私からも良いかな」
「……いいよ」
結局照れくさくて、言いたかった事はあんまり伝えられなかったけど、まあいいか。また検査で来なきゃいけないのだからその時にでも、見舞いに来ればいいさ。
今度は僕の家からおすすめを持ってきてあげよう。きっと秋穂も喜ぶだろう。
なんて事を考えていると秋穂は言った。
「私、もうすぐ死んじゃうんだ」
秋穂は何でもないような声でそう言った。
僕の心臓は途端にドクンと跳ねた。嫌な汗がブワっと吹き出す。
「なんとなくわかってたかな? 良くないんだってのは」
秋穂がそう言っている声が何処か遠く彼方に聞こえる。だって、そんな、そんな事なんて在るはずもなくて――。そういうのはきっとテレビや本の中だけの事で――。
「私も恵と一緒に居られて楽しかったよ。ありがとう」
――秋穂はどういう気持ちでこれまで笑っていたんだろう。姉はどうして僕を秋穂に引き合わせたんだろうか。




