『僕の名前は恵、彼女の名前は秋穂』
姉はここで待っててと、言うとドアをコンコンっとノックして「秋穂ちゃん入るわよー」と言って病室に入っていった。仕事モードに入ってらっしゃる。というか返事は待たなくてよかったのだろうか。姉はプロの看護師として大丈夫なのだろうか。
少ししてドアを少し開き顔だけそこから出した姉が「ほら。恵、入っていいわよ」と言ってくる。人の病室に入るのは初めてだなと思いつつドアを開けると、同年代程の少女がベットから体を起こしてこちらを伺っている。
なんだか改めて同年代程の少女と話すとなると、どうすればよいのか分からない。アレ? 学校ではいつもどのように喋っていたっけか。
「……ええっと……。初めまして?」
「その……。初めまして?」
そうすると彼女も少し気まずそうに返した。
「ピュアか! 若いってこんなんだっけか。羨ましいなぁオイ!」
一人だけやかましい奴がいるけれど。
「えっと……こんな格好でごめんなさい。栞さんの弟さんなんです……よね?」
彼女の服装は水色のパジャマの様な薄めの生地で、袖口の先から見える腕や顔の色の白さが目を引いた。背中まで伸びた黒い髪と肌の白さがなんだか儚げな雰囲気を作り出していた。
「はい。姉に頼まれて本を代わりに選んでくれと言われて……」
お年玉が人質に取られている事は黙っておこう。
「名前は恵って書いてケイって読む。という訳で弟のコイツが今度から代わりに借りて来てくれるから。同い年だから仲良くしてな」
ご丁寧に姉が名前の紹介までしてくれた。
「よろしくお願いします。恵さん」
「そんなかしこまらずに恵でいいわよー」
いやまて、僕が言うなら解るが、姉がそう言うのはおかしい。
「まあ、同い年なんだったら恵でいいよ。上の名前だと姉もいるから紛らわしいし……」
「んー。でも、呼び捨てはなんだかアレなので恵くんでも?」
恵くん……。呼ばれる方としては逆に照れくさいけれども……。
「じゃあそれで!」
だから僕じゃなくて姉が言うのはおかしい。
「んじゃ、後はよろしくな我が弟よ」
そう言って出ていってしまった。ホント顔合わせの時しかいなかったな……。我が姉ながら自由な奴め。
「えっと……。借りてきた本なんだけどさ。中村航一さんの本にしたんだけどこの人の作品読んだことある?」
「それって、『百一回泣く事』を書いた人よね。気になってたんだけどまだどれも読んだ事なくて!」
良かった。すでに読んだ本という悲劇は避けられたようである。
「たぶん有栖川さんと作風が似てるから気に入ると思うよ」
「本……好きなんですか!」
そう少し興奮気味に言うもんだからなんだかこちらまで笑顔になってしまう。
「うん。秋穂さんも好きみたいだね」
「はい!」
彼女の返事には隠し切れぬ喜びが詰まっていた。まあ、僕だってとても嬉しいけれど。こうして本の話が出来る人はなかなか居ないから。
それも同年代でってなると余計に。
「あっ、それと――。呼び方、秋穂でいいですよ」
今日、友達が一人出来た。




