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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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36.寒中水泳という名の無謀

「うっ――」

 

 縁を覗くだけで伝わってくる冷気に圧され、思わず仰け反る俺。

 しかし、躊躇している間にもハルの姿は揺れる水の中で小さくなっていき――


「くそっ!」


 女の子に助けられておいて、その子を見殺しにするなんざモテるモテない以前の問題だ!

 仮にそれで生きて帰っても、誰かと結婚しようなんて気にはなれないだろう。

 

「ええい、ままよっ!」


 俺は大きく息を吸うと、札を握りしめたまま氷海飛び込む!

 

「――へくっ!?」


 冷たいと感じるよりも前に、変な声と共に体が硬直する。

 ハルを見ていたはずの視界が一瞬で真っ白に塗り替えられ、直後真っ暗闇に落ちていく。

 慌ててもがこうとするが、何の感覚もない。まるで腕などなかったかのように、暗闇の世界へ落ちていく。

 やばい、死ぬ――いや、もう死んでるのか?

 感覚のない世界なのに、ふわふわとした感覚を覚える。

 ああ、死ぬ前に一度でいいから結婚したかった――


「ごぼぁ!?」


 ふわふわした世界から一転、きりもみした世界に引き戻される!

 元に戻った視界をゴーレムが通り過ぎて落ちていく。

 そうか、俺の後を追って・・・・・・。

 別に俺を助けようとしたわけじゃないだろうが、なんかしんみりとする。

 少しの間、海底へと消えていくゴーレムを眺めていたが――そういえばハルは!?

 慌ててあたりを見渡すと、俺と同じくゴーレムの落下に巻き込まれたのか、まるで枯葉のように水中をくるくると回るハルの姿。

 そして、そのハルへと近づいてくる大きな黒い影。

 ゴーレム――ははるか下の方だから、自分で何とかするしかない。

 意識が戻ったおかげか手足が動くようになってはいたが、泳ごうにも冷えた手は開かず、少しずつしか前に進まない。

 せめて魔法が使えれば――。

 ポーチはいまだしっかりと腰についていたが、握りしめられたままの手では開けることすらままならない。

 くそっ!

 俺は指を無理やりにでもこじ開けようと、指を歯に当てて力任せに――

 あれ?

 握りしめた拳からはみ出ているもの。これは――


「ファイア・・・・・・ボルト・・・・・・!」


 最後に残った空気を絞り出すように、呪文を唱える!

 実際に声になっていたのかは分からないが、とにかく魔法は発動した。

 空気と共に生み出された複数の火球は、まるで水中で撃たれた花火のように赤い軌跡を残しながら影の方に迫り――爆発した!

 瞬間、生暖かい水がまるで温泉のように噴き上げ――


「ぁ――っ!?」


 今度はゴーレムが落ちてきた時とは反対に、上に向かってもみくちゃにされ――


「ごほっ、げほっ、っはー・・・・・・」


 口から息――ではなく水を吐いてから、ようやく空気を吸い込む。

 まるで上下左右に回るジェットコースターに乗ったような気分だったが、何とか生きて地上に戻ることができた。


「ハル!」


 少し離れたところに、俺と同じように水面を漂うハルの姿。

 ただし、顔を水につけたままピクリとも動かない。

 泳げる程度に温かくなった水を掻き分けてハルを拾うと、そのまま陸上――というか氷上だが、に上がる。


「おい、しっかりしろ!」


 引き上げられたハルは、しかし声をかけても、べちべちと顔を叩いても何の反応も示さなかった。

 くそっ、こういうときは――どうすりゃいいんだ?


「ええと、まずは状況を・・・・・・」


 脳内で自分に問いかける。

 心臓は動いているか?

 ハルの胸に手を当てる。

 手袋越しに柔らかい感触が伝わってくる――じゃなくて、手袋越しだと動いてるかどうかまではよく分からない。


「何やってんだ、俺」


 手袋を外し、今度は首すじに手を当てる。

 脈は――ない気がする。正しい意味で。


「うん・・・・・・」


 次。

 息はしているか?

 手をハルの口に当てるが、しかし何も感じるものはなかった。

 息もしてない、と・・・・・・。


「ええと、どうすりゃいいんだ?」

 

 一番手っ取り早いのは魔法で蘇生することだが――なんかなぁ。

 今はリザレクションの札を持ってきてないので、一回ダンジョンに戻る必要がある。が、その途中で襲われて死体を失くしたりしたら蘇生すらできなくなってしまう。

 そのリスクを考えると、このまま何とか息を吹き返して欲しい。

 確か、心肺停止してから10分経つとヤバいんだっけか?

 昔、合法的にキスができるという理由で受けた救助訓練を思い出す。

 もっとも、それを活かす機会は今までなかったが・・・・・・ライフセイバーめ。

 とはいえ――


「よいしょ、っと」

 

 足を掴んで逆さにしてみると、少しながら水がハルの口から滴り落ちる。

 しかし、一向に息を吹き返す気配はない。


「こうなったら――」


 迷っている間にも時間は過ぎていく。

 時間が勝負、死ぬよりはマシだろう。

 ――あんたとキスするくらいなら死んだほうがましよっ!というセリフが脳裏にフラッシュバックするが、本当に死ぬくらいならキスの方がマシだろうと思う。さすがに。

 俺は息を大きく吸い込むと、ハルの鼻を摘まんで――。

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