30.強化という名の狂気
「ただいまー」
「おかえりなさい・・・・・・って、何ですかそれ?」
ダンジョンに戻ると、受付にはロッテが一人。
俺が持ち帰ったもの――荷車一杯の剣を見て、疑問の声を上げた。
「何に見える?」
「剣、ですけど・・・・・・売り物ですか?」
「それもあるが、ちょっといいものを作ろうと思ってな」
「いいもの? ボクの武器とかですか?」
「ちょっと違う」
えー、ケチーとか言いながらまとわりついてくるロッテを手で払いながら、俺は剣を何回かに分けて控え室に運び込んでいく。
途中、ロッテも手伝ってくれたおかげで割とすぐに運び込めた。
「さて、始めるか」
「何をです?」
「それは――っていうか、お前は受付だろ」
「大丈夫ですって、今の時間ならそんなに人来ないですし。何ならちょっとイケないことをしてても――」
言いながらロッテは触れるか触れないかくらいの微妙な位置でその小さな手を、俺の首から胸、そしてさらにその下へ――。
ごくり、っと唾をのむ音が鈍く響く。
落ち着け俺、だが男だ。
「そういうわけにはいかないだろ。ほれ、戻った戻った」
「ぶー」
手を振り払い、控え室から追い出すとロッテは不満げに頬を膨らませながらも受付に戻っていった。
ふう、あいつが女だったら――っと、今は本物の女、しかも人間、しかもまともで美人! と付き合ってるんだから余計なことを考えるのはよそう。
やらなきゃいけないこともあるしな。
「さて」
俺は筆をとると見本となる札を見ながら紙に呪文を書き込んでいく。
それをひたすら繰り返し、完成した札が徐々に山となっていき――
「うし、一旦これくらいでいいか」
左側には剣の山、右側には呪符の山が出来上がっていた。
俺は剣と呪符を手に取ると、
「エンチャントシャープネス!」
ピシッという音と共に強化の証である刻印が剣に刻まれる。
同時に力を使い果たした札が燃え尽き、灰と化して床に小さな染みを作る。
出来上がった剣を持ったまま更に新しい札を手に取り、
「エンチャントシャープネス!」
再び音と共に刻印が刻まれる剣。
これで鋼の剣+2というところだろうか。
さらに―
「エンチャントシャープネス! エンチャントシャープネス! エンチャント――」
壊れたテープレコーダーのように繰り返す。
唱えた回数だけ剣に刻印が刻まれていくが、しかし――
「エンチャントシャープネス!」
パキッという音と共に、刀身が砕け散る。
鋼の剣+14は壊れてしまった!
14回か・・・・・・。
まあいい、剣ならいくらでもある。
買ってきたので足りなければ、ダンジョンで売る用のやつを使ってもいい。
俺は無言のまま再び剣と札を手に取る。そして――
「エンチャントシャープネス!」
呪文を唱える声とピシッという刻印が刻まれる音、時折り剣が砕ける音、そしていまだ居座る千歳のいびきの音が延々と控え室から流れ続けるのだった・・・・・・。