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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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10.封印という名の執行猶予

「ここがそうか」

「そうよ……」


 偉そうなおっさん――調査団の隊長の問いに、フィーネが答える。

 調査団を出迎えた俺たちは、洋館から数分の場所にあるダンジョンの入口前に立っていた。

 隊長は洞窟――というには人工的なその穴の入口を見たまま、何かを考えているようだった。

 調査団は思ったよりも小さく、隊長の他には見習いだろうか若い男が二人、隊長の指示を待って立っている。

 頼むから余計なことを言うなよ、フィーネ……。

 さんざん釘を刺したが、それでも不安になる。

 隊長は俺のほうを向くと、やはり無表情で問いかけてくる。


「そいつらは?」

「そこの洋館の住人でして……」

「……ダークエルフ?」

「俺……いや、私の召使いでして」

「ふん、悪趣味だな」


 何だこいつ偉そうに。

 ロッテが男じゃなかったら殴ってるところだ。

 大体なんで女がいないんだよ。

 調査団だったら女の一人も連れてこいってんだ。

 せっかく準備した持てないの用意は完全に無駄になった。

 笑顔でふてくされる俺を無視して隊長は入口の方へ歩いていく。


「入るぞ。先導しろ」

「はいはい」


 言われて先に立つフィーネ。

 もうちょっとこう、愛想よくするとかできないんだろうか。

 そこはかとなく不安を感じながら俺も穴の中へと入っていったのだった。


◇◆◇◆◇


 ――穴を抜けると、そこは体育館だった。

 いや、本物の体育館というわけではないが。

 穴の中を進むこと数分、そこには広大な空間が広がっていた。

 人工的にくりぬかれたような大きな部屋。

 その壁には不思議な模様が青い明りを放っていた。

 そして――


「なんだこれは」


 隊長のつぶやきが部屋にこだまする。

 調査隊の二人も、口を開けてぽかんと上を見上げていた。


「封印……じゃないでしょうか」


 隊長の問いに答える俺。

 他のみんなと同じく、俺も目の前の巨大な石の扉を見上げていた。

 ――正確には扉というよりも、扉の形をした模様という感じだが。

 そしてその近くには大きな文字で、こう刻まれていた。


「七度陽が登りし後、この扉は開かれん……」

「七日後に封印が解ける、ということか……。おい。」

「なによ」

「お前が来た時にはこの文字はあったのか?」

「さあ? 扉の前に落ちてた剣に夢中で気づかなかったわ」

「……お前に期待したのが馬鹿だった」


 隊長はため息をつくと、扉に手を触れて何かを調べ始めた。

 残りの二人もカバンから道具を取り出して調査を始めている。

 大丈夫……だよな。

 俺はバレないことを祈りつつ、その様子を眺めるしかできなかった。


 数分後。


 「ふむ」

 「何かわかりましたでしょうか」


 扉から離れた隊長に、俺は恐る恐る問いかける。

 隊長は部下に指示を出すとこちらを向き、言葉を続けた。


「ああ。この部屋の壁もそうだが、扉からは特に強い魔力を感じる。何らかの封印が施されているとみていいだろう」

「なるほど」

「できれば今すぐ封印を解いて中を調べたいところだが――」

「……ですが?」

「感じられる魔力からして、相当に強い封印だろう。これだけの封印を破るとなるとそれこそ勇者でもないと難しいな」

「勇者ですか」

「ああ。丁度一人が町に来ていたが、今はオークの討伐に出ていて当分戻らん。それにあいつは……ちょっとな」

「はあ」

「で、結論だが」


 隊長はそこで言葉を区切ると、俺の両肩に手を置いた。

 ……なんだ?

 戸惑う俺を無視して、彼はその手に力を込めていくーーまるで逃がさないとでもいうように。

 もしかして、バレた!?

 一日で作った割にはいい出来だと思ったんだが、やっぱ無理だったか――。

 俺はこっそりとポケットの札を掴み、ちらりと出口を確認する。

 ――しかし、隊長が続けた言葉は全く違うものだった。


「君にお願いがある」

「お願い……?」

「ここをしばらくの間見ていてくれないか。他に急ぎの仕事があってな、実はここへもそのついでに寄っただけなんだ」

「それくらいならいいですけど」

「助かる。我々は7日後の朝にまた来る。何か変わったことがあればそこの超高性能無能女を送ってくれ。いくらそいつでも知らせるくらいはできるだろう」

「ちょっと、それってわたしのこと? いくらなんでも酷くない!? ダルトンおじさん!」

「おじさん……!?」

「二度とおじさんと呼ぶなと言ったはずだろう。お前とはとうの昔に縁を切ったはずだ」

「ちょっと待て! お前ら親戚なのか?」

「不本意ながらな。そいつから何も聞いてないのか?」

「ふっふー」


 吹けもしない口笛を吹いてそっぽを向くフィーネ。

 こいつ……後で締める!

 そういやこいつ、なんでも言うこと聞くって言ってたよな。

 さて、どうしてくれようか……。


「さて、では我々はそろそろ」

「ああ、何かあったらこの放射性迷惑娘を送り付けるよ」


 敬語を使うのがあほらしくなり、砕けた口調で俺は答える。

 隊長――ダルトンはやはり表情を変えずに、出口へと歩いていった。


◇◆◇◆◇


 調査隊が消えていった道を見ながら俺はため息をついた。

 ふう、なんとか誤魔化せたか……。

 扉を調べられたときはもう駄目かと思ったが。


 ――そう、あの石の扉は本物の扉ではなく、ただ壁に掘られた模様だったのだ。

 それだけだとすぐばれてしまいそうだったので、強化の魔法をこれでもかというくらい掛けておいた。

 そうすれば壊されることはないし、溢れる魔力から封印と言い張ることもできる。

 ……ちなみに、駄目だったときは明りの魔法で目をくらまし、全力で逃げるつもりだった。

 まだ結婚もしてないのに牢屋なんかに行ってたまるかっていう話だ。

 いや、結婚してても嫌だけど。


 「ともあれ、何とか時間を稼げたな」


 後は稼いだこの7日間でダンジョンを造らなければいけない。

 ダンジョンねぇ……。

 昔やったゲームを思い浮かべる。

 ダンジョンっていうと、モンスター、罠、そしてお宝……か?

 金もないのにどうやって用意すりゃいいんだ?


「――ま、なんとかなるか」


 ……いざとなりゃ逃げりゃいいし。

 俺はそうつぶやくと、フィーネたちが待つ洋館へを足を向けたのだった。

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