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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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29.お願いという名の罠

「おたく、リーニャの連れ?」

「だとしたら何さ」


 透き通った金髪に整った顔。

 それに負けないくらいに存在を主張している煌びやかな服装を見るに、かなりいいとこのお坊ちゃんという感じだろうか。

 俺の嫌いなタイプだ――イケメンは全員嫌いだけど。

 敵意むき出しの俺に、しかしその男は馴れ馴れしく俺の肩に手を置くと言葉を続けた。


「悪いことは言わない、あの女だけはやめとけ」

「あんたにそんなこと言われる筋合いはないな」

「人の忠告は聞くもんだぜ。俺もあの胸の凶器に釣られて酷い目にあったしな。さんざん貢がされたあげく、無理難題を――ってやべっ」


 焼き菓子を手にこちらへ歩いてくるリーニャを確認して、男は慌てたように言葉を切った。


「とにかく、死にたくなかったらあいつはやめとけ。じゃなっ!」


 そう言い残すと、男は小走りで公園の外へと去っていった。

 入れ替わる形になったリーニャは俺に菓子を手渡すと、


「今の人は?」

「いや、なんかリーニャが俺の連れか、だって」

「そう。――で、」


 リーニャに服の裾を軽く掴まれて、何となく腰が引ける俺。

 そんな俺を、リーニャは揺れる瞳で見上げてきて、


「トシアキはなんて答えたの?」

「えっ? ああ、もちろん俺の連れだって」

「・・・・・・ありがと」


 おおっ!

 ありがと、ってことは嫌じゃないってことだよな!?

 俺と連れだって思われて嫌じゃないってことだよな!

 これはもう結婚を・・・・・・いや、とりあえず何か会話、会話を――


「そ、そうだ。リーニャは何で絵を描いてるんだ?」

「んー、まあ好きだから、かな」


 俺よりも? という喉元まで出かかった言葉を飲み込み、


「どういうところが好き?」

「そうね、変わらないところ、かな」

「変わらないところ?」

「うん、わたしね、自分で言うのもなんだけど奇麗でしょ?」

「もちろん」


 普通の人間が言うと馬鹿っぽいセリフだが、リーニャが言うと様になっているのがまた凄い。

 二つ返事で頷いた俺に、リーニャは言葉を続ける。


「でも、どんなに頑張ってもわたしは年を取って、いつか醜いおばあちゃんになっちゃうの」

「それは――」

「絵の中ではわたしはいつまで経っても綺麗なまま。永遠に、変わらない――」


 そう言って空を見上げるリーニャからは活発な印象はなくなり、代わりに儚げな、手を伸ばしたらどこかに消えてしまいそうな雰囲気に包まれていた。

 まるであの自画像のように――。


「ま、きっかけはそれで、今は単純に楽しいから描いてるだけだけどね。そんな必要もなくなったし」


 言葉と共に、再び浮かぶ活発的な笑顔。

 そんな必要はなくなったって言うのはつまり、一緒に年を歩いていく人――つまり俺だ、が見つかったから、ということか?

 30年後、50年後の俺とリーニャがどうなっているか――


「この町に来たのも、描きたいものがあったからなんだよ」

「へ? ああ、そうなんだ」


 やばい、妄想に入り込んでて半分聞いてなかった。

 この妄想に入り込む癖も治さないとな。もう現実の嫁ができるわけだから必要なくなるし。


「この町に女の勇者様が来てるって聞いて、ぜひモチーフにさせて欲しい! って思ったんだけど、全然見つからないのよね。やっぱりただの噂だったのかな」

「勇者ならうち――」

「うち?」


 ――っとあぶね。

 うちに居ついてるのは秘密にしろって言われてたっけ。変質者に追われてるんだっけか?

 それに、あの飲んだくれのへべれけ姿を見せて、勇者だって納得させる自信もないし。


「ええっと、打ち合わせに言ってるとかじゃないかな? ほら、冒険者ギルドとか」

「冒険者ギルドねー、何度かいってみたけど・・・・・・トシアキは冒険とかするの?」

「ああ、もちろん」


 主になりゆきで、できればあんまりしたくはないけど。

 魔力がいくら強いとはいえ体は普通の人間だし、ぶっちゃけ魔物なんかに会わなくてもナイフで刺されれば十分死ぬし。

 何なら階段から落ちて転ぶだけで死ぬ可能性だってある。

 そう、俺は平穏に、嫁といちゃいちゃラブラブして暮らしたいだけなんだ!


「そうなんだ! わたし、強い人って好きだな。剣とかも使えたりするの?」

「もちろん、俺に切れないものはないってね。いや、見せたかったなー、ドラゴン倒すところ」

「えっ、ドラゴンを!?」


 何となくドラゴンを倒した記憶が浮かんできて口走ってしまったが、よく考えたら倒された側だった。勇者に。

 でもまあ、今ならドラゴンどころか魔王ですら倒せるような気がする。死ぬ気がしない。

 ちょっと週末に倒してこようかな。

 リーニャは俺の言葉に目を丸くしていたが、少し背伸びすると、俺の耳に口を近づけて、そう、息がかかるくらいに――


「ねえ、お願いがあるんだけど――」


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