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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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28.幸せという名のひと時


「ふんふーん・・・・・・」

「何浮かれてるのよ」


 思わず鼻歌なんかを歌いながら髪を整えてる俺に、フィーネが冷めた目を向けてくる。

 俺はワックス代わりの精油を少し手に取ると、鏡に映る自分から目を逸らさずに答えた。


「仕方ねーだろ、ここしか鏡がないんだから」

「館に戻ればいいじゃない」

「めんどくさい」


 俺がいつも居るダンジョンの制御室(兼魔力球置き場)には鏡――というか基本何もないので、鏡を見ながら見た目を整えようと思えば控え室までくるしかない。

 フィーネの言う通り館に戻ればもちろんあるが、今、この状況を自慢したいというのもあった。ウザがられてるけど。

 ちなみにもう一人この部屋にいるが、そいつはそもそも俺の声が耳に届いてすらいない。

 なぜならそのもう一人――千歳は酒瓶を抱いたまま仮眠用のベットで爆睡中。

 口元から零れた酒なのか涎なのかよくわからないものが一朝一夕ではできないような深い色の染みを作っていた。

 

「で、だ」

「なによ?」

「さっきの質問の答えだが――」

「何も聞いてないけど」

「デートだよ」


 記憶力ゼロな発言を無視し、満面の笑みで俺は答えた。

 フィーネはもはやこっちを見ることもせずに手にした豚串を口にしていたが、やがて食べきると


「どうせロクな女じゃないんでしょ。どうでもいいけど、騙されて高い絵を買わされたりとかしないでよね」

「あの人はそんな人じゃないさ。んじゃ、いってきまーす」


 俺は中断していた鼻歌を再開すると、思わずスキップしたくなる足を抑えて控え室の扉を開けるが、ふと足を止めて振り返る。

 部屋にはフィーネと千歳、そして壁に掛かった一枚の絵。

 寂れた廃村の絵もなぜだろう、心なしか温かい春の芽生えを感じさせたのだった。


◇◆◇◆◇


 待ち合わせ場所に行くと、そこにはすでに金髪の美人、いや妖精、いやいや女神がその姿をあらわにしていた。

 何時間でも眺めていたい光景だが、女性をこれ以上待たせるのはいかがなものかと思い、声をかける。


「ごめん、待ちました?」

「ううん、今来たところだから大丈夫」


 くうっ、これだ!

 10年以上ずっとやりたくてできなかったことの一つがついに!

 ちなみに学生の頃、女の子と待ち合わせしたときは24時間以上待った挙句に別の男と連れ添って歩いているのを目撃するという逆ミラクルが・・・・・・いやまあ思い出す必要もないが。

 俺は心の中でやり残したことリストから一つ削除すると、残りの107個のうちのどれを消化しようか考える。

 ベタだけど砂浜でウフフアハハな追いかけっことか、そのためにはまず海に――


「少し歩く?」

「そ、そうだすね」


 思わず噛んでしまう俺だが、彼女はくすっと笑うだけで深く突っ込んでこない。

 腰までかかる蜂蜜のような少しくすんだ金色の髪に妖精のような白い肌。赤と白を基調とした少し変わった形のドレスだが、金糸の刺繍が嫌らしくない程度に輝いている。

 年のころは20歳ほどだろうか、クリッとした目が少し幼い印象を与えるが、一方で少し太めの眉が意志の強さを感じさせていた。


「ねえ、トシアキ」

「なんだい、リーディヤ」

「もう、リーニャって呼んで」

「ごめんごめん、リ、リーニャ」


 こんな幸せがあっていいのだろうか!

 今ならあの剣士と魔法使いの結婚式にだって出たっていいくらい。

 むしろ出席してブーケ取って、そのままリーニャと・・・・・・


「えいっ!」

「――っ!?」


 リーニャは俺の腕を取ると、ぎゅっと抱いてそのまま歩き始める。

 彼女の薄い手袋越しにではあるが、伝わる体温。

 そして腕に当たる柔らかい感覚。

 落ちつけ俺・・・・・・これは、いや、女だ!

 

「ねえ、トシアキ」

「なんだい、リーニャ」


 壊れたテープのように、同じような言葉を繰り替えす俺。

 幸せ過ぎて壊れそう。

 これはもう、結婚してゴールインするしか――


「トシアキの腕って見た目より筋肉あるんだね、がっちりしてる」

「鍛えてるからね」


 格好つけて返すが、特に鍛えてはいない。

 それだけこっちの世界の男がひょろがりだってことだろう――あるいは見るからにマッチョが多いか。

 腕の感触と会話――もっとも会話の方は全然頭に入ってこないが、を楽しみながら歩いていると、デートスポットで有名な公園にさしかかる。

 

「あっ、焼き菓子の屋台だ! ちょっと買ってくるね。一緒に食べよ!」

「ああ。んじゃ、俺は席取っとく」


 腕に残る感触を名残惜しく思いながら、俺は少し離れたところにある公園の椅子に向かって歩き出した。

 公園の椅子は既にカップルで埋まっていて、その椅子が最後の一つという感じだ。

 ――いつもならこの光景を見て、爆発しろっ、ていうか呪文で爆発させてやる! とか思うところだが、今日は違う。そして明日も。

 なぜなら俺はもう、こっち側の人間だから!

 椅子に腰かけて彼女を待つ俺。

 ――と、間を置かずに肩を軽く叩かれる。

 

「早いな――」

「よっ」


 振り返った俺を迎えたのはしかしリーニャの太陽のような笑顔ではなく、知らない男の軽薄な笑みだった・・・・・・。


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