27.画廊という名の回廊
「・・・・・・」
店主の無愛想な視線を受けながら画廊に入る。
・・・・・・別におっさんに愛想よくされたいとも思わないが、いらっしゃいの一言くらいはあってもいいんじゃないか?
そんなことを考えながら俺は絵を眺めていく。
「ふーん・・・・・・・」
飾られている絵は風景画が多く、それも何故か寂れた農村だったり、打ち捨てられて廃墟と化した家々だったり。
なんていうかこう、もっと明るい絵はないのかな。
具体的には可愛い女の子が描かれた、もしかすると若干露出が高かったりなんかするような――こっちのほうかな?
敢えて通路を暗い方へと進んでみる。
――と
「うっ・・・・・・」
思わず喉からこみ上げる呻き声。
目が合ってしまった・・・・・・と言っても生きている人間ではない。
絵の中の少女。確かに露出は高いのだが――
その椅子に座った――いや、載った少女は両足が太ももの中ほどで切られ、その切り口はまるで干からびた大根のように枯れていた。
もはや何の表情も映していないその顔は、しかしその漆黒の目だけが生きているかのようにこちらをみているのだった。
すぐ目を逸らしたのでよくわからなかったが、他の部位も何か所か切り取られているように見えた。
「――ん?」
目を逸らした先――通路の奥には、同じ少女の絵。
しかしこちらはもう少しまともで、痛々しいのには変わりがないが、その肌には張りが感じられ、また前の絵よりは幾分パーツが揃っている。
恐怖という表情があるだけ、まださっきの絵よりもマシな気がした。
・・・・・・欲しいとは思わないが。
ちなみに、タイトルは『Ⅱ.救出』だそうだ。
「救出、ねぇ・・・・・・」
さらに奥を見ると、次の絵のタイトルは『Ⅲ.回復』。
背景や椅子は同じで、違うのは少女の体に傷一つない状態であるということ。
奇麗な姿勢で椅子に腰かけた少女は、しかし何かに怯えた表情で薄っすらと涙さえ浮かべながらこちらを見ている。
さらにその奥には――『Ⅳ.癒し』
「お、これなら欲しいかも」
並べて置かれていなければ同じ少女だとは思わなかっただろう、絵の中の少女は木漏れ日の中、幸せそうな笑みを浮かべて犬と戯れていた。
この絵だけならダンジョンのロビーとか、あるいは控え室とかに飾ってもいいかもしれない。
セットで、はお断りだけど。
一連の作品は、魔物か野盗かは知らないが、に攫われて酷い目にあっていた少女を救出、回復するまでの経過を絵に描いたってことだろうか。
なんっつー悪趣味な・・・・・・とも思うが、まあ最後に幸せになるならいいか。
けど、何か違和感があるんだよな、この絵・・・・・・。
いや、絵なんかどうでもいい。むしろ絵なんかより実物が欲しい。勿論回復後の。
そうか、魔物に攫われている可愛い――じゃなくて可哀そうな子を助けるっていう手もあるよな。
まずは攫われている女の子を探して――ってどうやって探すんだ?
「――ん?」
通路の脇の扉から女性のうめき声が聞こえたような気が・・・・・・。
気になった俺はそっと扉を開けてみる。
どうせ居るなら、可愛い女の子――もちろん痛々しくない――がいいが。
「失礼しまーす・・・・・・」
部屋の中で待っていたのは、カーテンの前に置かれた一枚の絵。
絵の中では黒髪の女性が噴水の水しぶきを浴びて楽しそうに笑っていた。
まだ描きかけでちゃんと色が塗られていない部分も多いが、何となく見覚えがあるような気もする――。
少しの間、絵の前で考えていると、不意に目の前のカーテンが音を立てて開き、中からは・・・・・・。