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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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26.絶望という名のネックレス

 輝く太陽。

 爽やかな風。

 そして何より――


「なんか視線を感じるな・・・・・・」


 言いながら思わず顔がほころびるのを感じる。

 この日のために用意した少し上質なシャツとズボン、そして例のネックレスをぶら下げた俺は町へと繰り出していた。

 一緒に特訓を受けた奴らに先を越されたかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

 身に付けたモテる感じが既ににじみ出ているのか、すれ違う女性の多くが俺を振り返るという素晴らしさ。

 ――若干視線に棘を感じる気もするが、きっと俺をよく見ようと目を凝らしているのだろう。 

 

「ねえ、そこの美人さん、良かったら俺と・・・・・・お茶・・・・・・」


 早速見つけた黒髪の美人に声をかけるが、最後まで言い終わる前に足早に立ち去ってしまった。

 が、まあ、立ち去る前にこちらの胸元へ視線を向けてはいたので、完全に無視されていた以前よりはいい反応な気がする。

 きっと病気のお爺さんに薬を届ける最中だったとかだろう。

 また後で見かけたら声をかけてみよう。

 ――とか考えていると、通りの向かいの花屋の店員と目が合った。

 売っている花と同じく――まあ花には興味はないが、可愛らしい感じの女の子だ。

 小さなリングのネックレスがよく似合っている。


「やあ、目が合ったね――」


 言いながら通りを渡ると、その間に女の子は店の奥に行ってしまい、代わりに強面のおっさん――店主だろう、が出てくる。

 おっさんは潰れた果実のような顔を不機嫌そうにさらに歪ませると、


「何か?」

「いや、別に・・・・・・」


 おっさんと目が合ってしまい、俺は思わず目を逸らした。

 そのまま背伸びして店の奥を覗くが、女の子の姿は見当たらない。

 どこの世界にも過保護な奴っているよな・・・・・・とか思いつつ、店を後にする。

 そう、元の世界でもいい感じになった後輩をデートに誘ったときも――


「まあいいさ、時間も女の子も、まだまだあるからな」


 まだ太陽は高い位置で輝いている。

 何もハーレムを作ろうというわけでもない。

 一人。そう、一人、人生の伴侶を見つければいいだけだ。

 ――まあ、一人に限る必要もないけど。そもそもこっちの世界、というかこの今いる国が一夫一妻制とも限らないし。

 もしいけるなら7人とかどうだろう。月曜日はあの子で、火曜日はこの子で・・・・・・。

 そんなことを考えながら、俺は未来の嫁候補を求めて町を歩くのだった。


◇◆◇◆◇


「おかしい! なんでだっ!?」


 俺は太陽の方向――すでに沈んでいる、に向かって叫んでいた。 

 声をかけた数が10人を超えたころから違和感を感じていたが、50人を超えた今でははっきりとわかる。

 女の子が俺を避けている。

 むしろモテ講座を受ける前の方が、避けられなかった分マシだったかもしれない。

 これはいったいどういう――


「教えて欲しい?」


 広場で打ちひしがれている俺に声をかけてくれたのは、最初に声をかけた黒髪の美女。

 その首元では、小さなリングのネックレス――流行ってるのだろう、が月の光を受けてキラりと輝いていた。

 おお、本当にお爺さんが病気だったのか!

 俺は間違っていなかった!


「ああ、君の名前をね――へぶっ!?」


 衝撃と共に視界が白いもので埋まる。

 顔に叩きつけられた紙を引っぺがすと、彼女は既にこちらに背を向けて歩き始めていた。


「なんだったんだ・・・・・・?」


 いきなりのことに目を白黒させながら、くしゃくしゃになった紙を広げる。

 何だろう、ラブレター?

 少しわくわくしながら視線を落とすと、そこには――


『注意!!

 最近、催眠の魔力がこもったネックレスが一部の男性の間で出回っています。

 効力は一時的なものですが、特に女性の方はこのネックレスをした人物には近寄らないようにしてください。

 ……

 …

 安全のため、女性の方はこちらの小さなリング付きネックレスを身に付けることをお勧めします。

 邪悪な魔力を打ち消す効果のある魔力が彫られており、催眠の魔力からはもちろん、普段の小さな不幸にも効果があります。

 普段は金貨1枚のところ、今回は特別に銀貨10枚……』


 ・・・・・・。

 くしゃっ、と紙が潰れる音が広場に響く。

 あいつ、あの詐欺教師、次あったら絶対殺す。男の夢を踏みにじりやがって・・・・・・。

 

「・・・・・・雨か」


 ぽたり、と落ちた雫が捨てられた紙に染みを作る。

 帰ろう。

 俺は滲む視界を拭うと、雨に打たれた犬のように帰路についたのだった――が、ふと視界を横切ったものに気を取られてその歩みを止める。


「個展?」


 画廊らしき小さな建物の入口には、宣伝文句と共に作者の自画像という題で淑やかな女性の絵が飾られていた。

 うん、気晴らしに絵を見てみるのもいいかもしれない。

 俺は首から下げたペンダントを外すと、建物の中へと入っていったのだった。


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