23.大きさという名の暴力
霧を突き破り現れたのは冒険者たちの3倍も4倍もありそうな、巨大なゴーレム。
しかし、冒険者たちが間の抜けた声を上げた理由はその大きさではなく、形の歪さにあった。
ゴーレムはその体に不釣り合いなほど肥大化した腕を後ろに引くと、そのまま振り子のように大きくスイングする!
「おい、なんかやばいんじゃないのか・・・・・・これ」
距離を取って剣を構えていた男の一人が呟く。
その声が聞こえたのか、避ける体勢に――あるいは率直な言い方をすれば逃げ腰になる冒険者たち。
一瞬の間を置き――巨大ゴーレムの一撃は一緒に現れた三体の球状のゴーレムをまるでビリヤードのように勢いよく弾き飛ばす!
「――んなっ!?」
ふっ飛ばされた球状のゴーレムはその形を保ったまま部屋の中を跳ね回り、不運な冒険者の一人を潰れた肉塊に変えてようやくその動きを止めた。
「ありかよ、そんなの・・・・・・」
「今のうちだ!」
一瞬呆けた冒険者たちだったが、髭の一喝で我に返ると、一気にゴーレムに向かって駆け始める。が――
「うおっ!?」
「なんだっ!?」
そのうちの3,4人が何かに足を取られて思い切り前へとつんのめる。
下にやったその視線の先には、
「――手!?」
そう、そこには人の頭ほどもあろうかという巨大な手の形をしたゴーレムが地面から生え、彼らの足をしっかりとつかんでいた。
「くそっ、離しやがれ!」
他の冒険者と同様に足を手型のゴーレムに取られた剣士は、剣を突き立て何とか引き剥がそうとする。
その先では、ゴーレムにたどり着いた冒険者数人がゴーレムの大振りな攻撃を避けながら剣や斧などそれぞれの獲物で攻撃を加えていた。
「これはいけるんじゃねぇか?」
「気を抜くなっ!」
ゴーレムに攻撃を加えている冒険者の一人が叩いた軽口に、髭が注意の言葉を投げつける。
確かにゴーレムの攻撃は大振りで単調、足場が不安定なのを差し引いても避けるのはそう難しいことではなかった。
しかし、
「効いてるのか、これ」
「くそ、硬いな・・・・・・」
ゴーレムの体も確かに削れてきているのだが、しかしそれ以上に彼らの獲物の刃が欠け、削れていた。
そんな戸惑う彼らの後ろから迫る黒い影。
「おい、気をつけろ!」
やっと手型のゴーレムを倒して自由になった剣士が注意の声を上げる。
剣士の声に振り返った冒険者たちは、慌てて上から振ってきた影を避けようと跳躍した。
「ぐあっ――!?」
避け損ねた一人が、その足を潰され苦痛の声を上げる。
しかし彼の、その苦痛に満ちた表情はすぐに恐怖で塗り替えられた。
「待っ――」
彼の上げた声に、しかし当然待つはずもなく――巨大ゴーレムが彼の上に載った球状のゴーレムごと彼を引き飛ばす!
散弾のように放たれる肉塊と、砲弾のように放たれる球状のゴーレム。
球は不規則に凹んだ床に当たると軌道を変え、ゴーレムに攻撃を加えていた冒険者たちを弾き飛ばす!
「うおっ!?」
同じくゴーレムを殴っていたヒーラーは、何とか手にした盾でその球を受けるが反動でふっ飛ばされる。
勢いを殺され、地面に転がった球状のゴーレムは、地面から生えた手のゴーレムによって再び巨大ゴーレムの足元へと運ばれていく。
そして再び放たれた球は、今度は剣士に向かって勢いよく突き進み――
「くっ!?」
避ける暇もなく、咄嗟に剣を構える剣士。しかしそれでは防げないであろうということは、鎧ごと砕かれた冒険者たちが物語っており――。
再度部屋に響く轟音。
しかし、剣士が覚悟していた死はどれだけ待っても訪れなかった。代わりに、
「全く、私が居ないとダメなんだから」
という、魔法使いの声が剣士の背中を打った。
振り返ると、ぎこちない笑みを浮かべた魔法使いが少し離れた場所に立っていた。
先ほどの轟音は球が着弾した音ではなく、空中で魔法によって弾き飛ばされた音だったのだろう。
「それより、ねえ」
「ああ」
剣士と魔法使い、二人の視線は巨大ゴーレムの同じ場所を指していた。
「やれるか?」
「やるっきゃないでしょ!」
頷くと、二人は剣と札、それぞれの獲物を構えたのだった。