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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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20.結婚という名の罠

「そういやお前ら、いつ結婚するんだ?」

「け、結婚ってそんな・・・・・・」


 尋ねたヒーラーに、剣士は魔法使いの方に視線を向けながら言葉を濁す。

 当の魔法使いは頬を軽く上気させ、息を切らしながら何か言いたげに剣士を見返していた。


「いいぞー、結婚は。家に帰って嫁と娘の笑顔が迎えてくれると明日も頑張ろうって気持ちになる。お前らも早く結婚して子供作れや」

「はぁ・・・・・・。でも、そうですね。確かに子供は欲しいかも・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ!」


 剣士の言葉に、唸るように声を上げる魔法使い。

 その反応に剣士は慌てて、


「ああ、いや、相手がいることだからまずはちゃんと相談しようとは思ってるけど・・・・・・」

「いーじゃねぇか、作っちゃえば。意外と何とかなるもんさ」

 

 睨む魔法使いと、歯を見せながら笑っているヒーラー。

 剣士は間に挟まれて苦笑いを浮かべながら再び口を開こうとしたが、魔法使いの叫びに遮られた。


「あんたらっ、状況分かってるの!?」


 鎧が鳴るけたたましい音を上げながら通路を全力で駆け下りていく剣士たち。

 その後ろを追いかけるようについてくる振動、そして重音。そしてそのさらに後ろには、通路を塞がんばかりの大きな岩があらゆるものを粉砕しながら勢いよく転がってきているのだった。


「だからこそだよっ!」

「はぁ!?」

「死ぬ前に一度くらいは結婚しておきたいだろっ!」

「そもそも死にたくないっ!」


 涙さえ浮かべながら叫ぶ魔法使い。その瞳から零れた涙は、しかし地面に染みを作る前に転がってきた岩によって掻き消えた。


「あそこっ!」


 通路の奥に視線をやりながら、剣士が叫ぶ。

 その視線の先には、左へと折れる別の通路。

 しかし――


「ミノタウロスがっ!」

「どうする!?」


 丁度その通路から出てきたのだろう、ミノタウロスは迫りくる剣士たち(と岩)に気づいて慌てて斧を構えるが――


「突っ切る!」


 剣士たちはミノタウロスの体制が整う前に、その横を勢いよく駆け抜ける!

 そしてその勢いのまま左の通路へと飛び込み――ごしゃっ。

 次の瞬間、水っぽいものが潰れる嫌な音が通路に響き――そして振動はやがて遠くへと去っていったのだった。


「うぁ・・・・・・」


 息を整えながら呻く剣士。

 その視線の先には、先ほどまでミノタウロスだったモノの残した赤黒い血だまりが点々と通路の奥へと続いていた。


「なんなのよ、一体・・・・・・」

「うおっ!?」


 体力の限界だったのだろう、床に座り込んで呻く魔法使い。

 その横では落とし穴に落ちかけたヒーラーが慌てて後ろへと飛びずさっていた。


「まるでびっくり箱だ――なっ!?」


 話している途中で軽く宙に浮き、剣士は驚きに目を丸くした。

 ずしん、とまるで何かの足音のような重低音が、しかしそれには大きすぎる振動を伴って近づいてくる。

 

「今度は何――」


 嫌気がさしたように呟きながら通路を覗き込んだ魔法使いだったが、言葉を言い切る前に口だけでなく体までも固まって言葉を失った。

 その視線の先にあるものを見て、剣士とヒーラーも同じく言葉を失くして身を固くした。


「なんだ、ありゃ・・・・・・」


 遠くからでもわかる、天井まで届く巨体。

 剣士の体ほどはあるだろうという、巨大な斧。

 それがはったりでないということは、歩くたびに発生している振動の大きさが物語っている。


「今ならまだ気づかれてない。早く逃げなきゃ・・・・・・」


 通路から身を引っ込めると、慌てて立ち上がり走り出そうとする剣士。

 ――しかし、さっきまでの全力疾走のせいか膝が笑って歩くのがやっとというありさまだった。


「戦える相手でも状況でもない、走って逃げられもしない、どうする・・・・・・っ!?」


 彼らがいる通路は見通しのいい一本道。

 岩が転がっていった方はわからないが、そちらに行くためには巨大ミノタウロスの視線の前に出ることになる。

 本調子であればまだわからないが、今の状態であれば走ったところですぐに追いつかれてしまうだろう。

 剣士が悩む間にも、足音は着々と近づいてくる。


「いや、死にたくない・・・・・・」


 札を握りしめながらも、その腕で身を抱きしめて震える魔法使い。

 ヒーラーもメイスを構えながらも、その顔には悲壮感が漂っている。


「何かないか、何か・・・・・・」


 状況を打開できる何かを探すべく荷物を漁る剣士だったが、慌てているせいで荷物を床に落としてしまう。

 

「くそっ!」


 剣士は落ちた荷物から視線を外して、やがて来る破滅を迎え撃つべく剣に手をかけるが――


「――それだっ!」


 再び荷物に視線を戻すと小さく呟いたのだった。


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