17.愛という名の合体技
剣士たちを取り囲むゴブリンたち。
刻一刻と狭まる包囲網に、しかし剣士はにやりと笑みを浮かべて叫ぶ!
「ウォーターボルト!」
自信満々に勢いよく放たれた水の塊は、しかし勢い余ったか目の前のゴブリンたちではなく、その上の天井に当たって砕けた。
剣士の手から燃え尽きた札が、天井からは力を失ったただの水が雫となって地へと落ちていく。
それを見た剣士は、笑みを浮かべたまま――
「今だっ!」
「ライトニングランス!」
掛け声に合わせて、魔法使いが電撃の槍を放つ!
電撃は撃たれたゴブリンを黒焦げに――はしなかったものの、目の前のゴブリンたちをまとめて吹き飛ばす!
「よしっ、一気に駆け抜けるぞ!」
その言葉を言い終わる前に、既に駆け出している剣士たち。
踏みつけられたゴブリンが恨めしい声を上げて剣士たちを視線で追う。
ゴブリンたちは立ち上がり追いかけようとするが、痺れているのか上手く立ち上がれずに転んでは味方の上に倒れこんでいた。
「――なんだ、椅子!?」
「いいから早く!」
下へ続く階段へあと少しというところで、何故か視界に飛び込んできた、やたら豪華な椅子。
思わず足が止まりかかった剣士の背中を、半ば体当たりする形で魔法使いが押しながす。
そして彼らが階段を降り切ったとき――あたりは再び静寂に包まれたのであった・・・・・・。
◇◆◇◆◇
「さすがにここまでは追ってこないわね・・・・・・」
降りてきた階段を見上げて、魔法使いが呟く。
一応はあたりを警戒していたが、とりあえずは安全そうだということが分かり、腰が抜けたかのように床に腰をつけた。
「なんだったんだありゃ・・・・・・」
「さあ・・・・・・」
やはり階段の奥を見上げて、剣士とヒーラー。
二人は階段に腰掛けると、大きくため息をついた。
「ま、なんにせよこれで進むしかなくなったわけだ」
「そうですね・・・・・・。でも、この先もゴブリンの大群だったらどうします?」
「考えたくもねぇな・・・・・・」
うんざりした表情を浮かべ、再びため息をつく二人。
重い空気が部屋を包む。
その空気をどうにかしようとしてか、ヒーラーが明るい声で話を再開した。
「まあ、でもさっきのは凄かったな!」
「いやあ、上手くいって良かったです」
「ていうかお前さん、魔法使えたんだな」
ヒーラーからの問いかけに、剣士は魔法使いへ視線をやり、
「彼女ほどじゃないですけどね。使えるのもこれだけだし・・・・・」
「しかも威力が弱くてまともに当ててもゴブリンすら倒せないけどね」
「飲み水の確保のために覚えたけど、こんな形で役に立つとはね」
魔法使いの言葉に、剣士は苦い笑いを浮かべながら答えた。
その二人のやり取りに、ヒーラーは笑みを浮かべると、
「いやあ、さすが愛のツープラトンってか?」
「んなっ!? 愛だなんてそんな・・・・・・っ!」
ヒーラーの言葉に、慌ててそっぽを向く魔法使い。
光の加減だろうか、帽子の隙間から除く頬がうっすらと赤く染まっていた。
「ほら、馬鹿言ってないでいくわよ!」
魔法使いはそのまま立ち上がると、大股でダンジョンの奥へと続く通路へ歩き始める。
「おい、待てよっ!」
慌ててその後を追う剣士。
そんな二人の様子を見て、ヒーラーはやれやれとでも言うようにかぶりを振ると、その後に続いたのであった・・・・・・。