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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
2.結婚できないダンジョンマスターが恋に堕ちるまで
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16.大広間という名のモンスターハウス

「アイスボルト!」


 放たれた氷の魔弾が膨らみかけた寄せ集めの人面を凍らせ、


「うおぉぉぉぉ!」


 ヒーラーの叫び声と共に放たれたメイスの一撃がその頭を一気に砕く!

 冒険者たちに向けて振り下ろされるはずだった巨人の腕が、力なく地面へ落ちて嫌な音を立てた。


「あぁ……うぉぉぅ…」


 怨嗟の声を残し、砕けた骨が、腐った肉体が地面に黒い染みを残して消えていく。

 後に残されたのは……青い輝きを放つ、一本の包丁。

 心なしかその刀身は冷気を纏っているようにも見えた。

 剣士はその包丁を拾うと、


「なあ、いつも思ってたんだが……なんで包丁なんだ?」

「っていうか、このダンジョン自体が謎よね。一体――」


 言いかけた魔法使いの言葉を遮るように、物理的な振動を伴って扉が開く。

 入ってきた方向と、その反対と。

 

「――これって……」

「ああ」


 ごくり、と唾を飲む音は、しかし人が駆け出す音にかき消された。

 

「あ、おい!」


 駆け出した他の仲間たち――一時的にであるが、に置いて行かれて困惑の表情で他の二人に視線をやる剣士。


「いーんじゃないの、貰っちゃえば」

「そんなことより……」


 魔法使いの言葉を受けて、剣士は包丁を背負った荷物入れにしまい込むと、部屋の奥、暗闇が続く方へと視線を向ける。

 その開いた扉の先には地下へと続く階段が、暗闇を飲み込むように存在していた。


「どうするの?札は多めに持ってきたからまだ余裕があるけど」

「おう、俺もだぜ」


 札の枚数を数えながら魔法使いとヒーラーが判断を仰いでくる。

 視線を受けた剣士は少しの間、部屋の奥の暗闇を睨んでいたが、


「行こう!」


 笑みを浮かべると部屋の奥へと歩き出した。


「そう来なくっちゃ!」

「まあ、心配するな。最悪死んでも弱くなるだけだしな!」


 そう言って剣士の後を追う魔法使いとヒーラー。


「いや、できれば死なない方向で……」


 ヒーラーの発言に苦い笑いを浮かべながら剣士。

 慣れもあるのだろう、彼らは軽口を叩きながら階段を降りていったのだった……。


◇◆◇◆◇


「なんかだだっ広い部屋だな」

「それになんか……視線を感じる気がするわね」


 階段を降りた先は、一つの大きな部屋になっていた。

 天井から薄っすらとした光が降り注ぐが、しかし部屋の壁が見えないほど広い。


「慎重に行こう。いざとなったら無理をせずに引き返す方向で」

「了解」


 剣士も何かを感じたのか、ゆっくりと警戒をしながら前へと進んでいく。

 歩くこと数分、一同は誰からともなくその歩みを止めると互いに背を向けて円陣を組んだ。


「……囲まれたな」

「そうだな」


 正体はまだ見えないが、奥で何かが蠢いては闇の形を変えていく。

 じわり、じわりと近づいてくるのを感じたのだろう、緊張に耐えられなくなった魔法使いが先手を打った。


「ファイアボルト!」

「グギュ!?」


 闇雲に放たれたその一撃は、しかし確実にその相手に直撃し、またその周囲を明るく照らし出していた。


「ゴブリン!?」


 醜い顔に、小柄な体。

 一体一体では大したことがない相手だが、しかしそれでも十分な数が居れば脅威となりうる。

 しかも――


「危ねぇっ!?」

「えっ?」

 

 突然視界を遮ったヒーラーの腕に目を丸くする魔法使い。

 直後、キンッっと金属が何かに当たって弾ける音が響いた。


「そんな――!?」


 床に落ちたそれを見た魔法使いの顔から、血の気が引いていく。

 

「マジかよ……」


 剣士たちを囲むゴブリンの群れ。

 その奥の方では、弓を構えたゴブリンが剣士たちに狙いを定めていた。


「くそっ、どうしたら……」


 油断なく剣を構えながら、しかし打開策が見つからず剣士は唇を噛んだ。

 上の階に戻ろうにもすでに階段から離れすぎているし、逆に下の階に行く階段はまだその姿を見せていない。

 逃げ場がなく、囲まれている。

 数も数だが、大部屋という逃げ場も遮蔽物もない場所がさらに状況を悪いものへとさせていた。

 剣士は部屋の奥を睨むが、ただ闇が蠢くだけ――


「ファイアランス!」

 

 魔法使いが再度放った炎の槍が、迫ってきていたゴブリン数体を焼き払い、部屋を一瞬ではあるが明るく照らし出した。

 剣士たちを厚く囲むゴブリンたちの群れ。

 そしてその奥の暗闇の濃淡。


「こうなったら、あの魔法でまとめて……」

「駄目だ、まだちゃんと制御できないだろ!」

「でもっ!」


 札を握りしめ、叫ぶ魔法使い。

 こうしている間にも包囲の輪は縮まりつつあるし、狙いこそ甘いものの散発的に矢が飛んできている。

 身を守る盾も鎧もない魔法使いにとっては特に最悪の状況だった。


「アレをやろう」


 部屋の奥を睨みながら言った剣士の言葉に、


「本気!?まだ一度も試してないじゃない!やっぱりあの魔法で――」


 札を握りしめ、魔法を唱えだした魔法使い。

 剣士は魔法使いの頬に手を当てて目を合わせさせると、


「大丈夫、俺たちならできる」

「――っ、分かったわよ」


 魔法使いは赤くなった顔を振りながら、ポーチから別の札を取り出して構えた。


「こっちはいつでもオーケーよ!」

「よしっ!」

「何でもいいけど早くしろよっ!」


 二人の前に仁王立ちしたヒーラーの鎧に、飛んできた矢が音を立てて弾かれる。

 剣士は笑みを浮かべると、同じくポケットから札を取り出して構えたのだった……。

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