15 設計という名の暇つぶし
「さて……」
座り慣れた床に腰を下ろすと、つい口から言葉がこぼれた。
独り言っておっさんぽいから極力避けてたんだが……最近見多くなった気がする。
まあ、元の世界にいた頃はそもそも人と話すこと自体少なかったからそのせいもあるだろうが。
ともあれダンジョンに魔力球を持ち帰ってきて次の日、俺はいつもの地下室に籠もっていた。
「ほんとは早く街に行きたいんだけどなー」
モテテクニックを学びに来ていた男たちは、ざっと20人くらいだっただろうか。
全員が成功したとして、街から20人、女の子が消えているわけだ。
あの後も次の回のモテ講座はやっていただろうし、下手をすると40人、いや100人……。
手にしたネックレスが俺を急かすように輝いていた。
「はぁ……」
ため息が、床に置いた魔力球にかかりその表面を曇らせる。
何となくそのまま服で表面を拭くが別に濁りが取れるわけでもなく、むしろ昨日よりも濃くなっていた。
フィーネ曰く、この濁りが魔力の蓄積度を表しているらしい。
真っ黒になれば充填完了とのことだったが……
「おーい」
コンコンッと指で叩いてみると、中の濁りが波打つように揺れて、やがて収まる。
魔法を直接ぶち込むことも考えたのだが、フィーネに思いっきり止められた。
あんだけ魔法を無力化してたんだから大丈夫だろと思うのだが、まあ確かに壊れたら元も子もないし……。
「暇だし、ダンジョンでも拡張するかな」
ちゃっかり持ち帰ってきたゴブリンやミノタウロスの死体は、既にフィーネに押し付けてある。
……そういえばふと思ったんだが、用済みの死体ってどうしてるんだろ。
昔見た、片付けられない女たちというTV番組を思い出す。
……さすがになぁ。
嫌な想像を振り払うように体ごとごろんと転がると、壁に映し出された映像が目に入ってくる。
各階層で戦っている冒険者たち。
何となく男女の組み合わせの冒険者が増えているのは気のせいだろうか。
可愛い女の子に抱き着かれて鼻の下を伸ばしている男冒険者が視界に入る。
こいつ、絶対潰す……!
男だけな!
「そのためにはまず別れさせないとな……」
呟きながら、頭の中で増設部分の設計が組みあがっていく。
折角だから今回のサロメダンジョンで経験したことを活かして……。
頭の中に浮かんできた内容を、まずはざっくりと紙に落とし込んでいく。
「後は、ボスをどうするかだよなぁ……」
さすがに今回サロメダンジョンで会ったボス――巨大ミノタウロスをボスにしてしまうと、誰も勝てなくなる気がする。
魔法が効かないのは魔力球のせいだったとしても、ゴーレムを砕いたのは素だし。
まあ、あの黄金の戦斧の力もあるのだろうが……。
あいつを投入した日には、ダンジョンが血で染まる未来しか見えない。
「いや、逆に考えるとアリか?」
ふと面白いことを思いつく。
この案なら――まあ、どっちみち冒険者は死にそうだが、反面楽しめそうでもある。
というか、俺が多分見ていて楽しい。
さすがに何もなしで戦わせるのはむごい気がするから、お助けアイテムを用意して……。
出来上がった設計メモを見て、思わず高笑いを上げそうになる。
「うし、いい感じだな」
どうせ魔力球が充填されるまでは動けないのだ。
折角だから今回は凝ったダンジョンにしよう……。
俺はそう呟くと、フィーネと話すべく地下室を後にしたのだった。